谷原秀人のエースパター

その年の“最強プロゴルファー”を決める男子ゴルフツアー最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」。優勝者や賞金ランキング上位の者など限定30人で争う特別な大会を制したのは、43歳の谷原秀人プロでした。

最終日を単独首位で出た谷原プロは3バーディ・2ボギーの「69」をマーク。逃げ切りで今季2勝目、通算16勝目、そして13回目の出場での大会初制覇を成し遂げました。「勝てていないのは、すごいしんどかった」と本人は語っていますが、このエリートフィールドに13回出ているというだけで凄いこと。いったいどんなクラブで戦っているのか、プロ入り20年で今なお進化を続けている谷原プロの優勝セッティングを調べてみました。

エースパターはなぜ封印され、そして復活したのか

谷原プロといえば、12年から3シーズン連続で日本男子ツアー平均パット数1位というパットの名手として知られています。しかし、2017年から3年間欧州男子ツアーを転戦する中で、パッティングイップスに陥りかけていました。

その理由は日本とのグリーンの差。日本のグリーンがきれい過ぎるのです。

初心者の頃、グリーン上を走ってしまい怒られた経験を持つ人もいるでしょう。なぜいい大人が怒られるほどの事態なのか? それは、コロがりが一定でなめらかなグリーンの状態を維持するためには、とてつもない手間とお金がかかるからです。

なめらかなコロがりを生むグリーンを作るには、重いローラーを使って転圧し、表面のデコボコを直す必要があります。さらには芝の密度が高く、そして短くなくては高速グリーンにはなりません。でも芝も生き物なので、転圧をかけられたり刈り高を短くされてしまうと弱ってしまい、病気や枯れが発生しやすくなります。そうならないようにこまめな散水と必要に応じて肥料の散布が必要ですし、エアレーションと呼ばれるグリーンへの穴あけ作業も定期的に行わなければいけません。もちろん、スズメノカタビラなどの雑草が生えたら、その都度手作業で取り除きます。ね? 大変でしょう?

グリーン整備にどれくらいお金がかかるかを表した言葉として「グリーンは表面に1万円札を敷き詰めたくらいのお金がかかっている」と言われることがあります。筆者はとある名門コースのグリーンキーパーにその言葉をぶつけた事がありますが、その方は「そんなもんじゃ済まないよ」と笑っていました。

それがどれくらいの金額なのかを大まかに試算してみましょう。名門によくある2グリーンのコースのケースだと、平均的な広さは450平方メートル。1万円札は縦76ミリ×横160ミリですから、約3万7000枚置けます。つまり、グリーン1枚あたり3億7000万円になります。走って怒られたあなた、怒られるくらいで済んでよかったですね。ちなみに2グリーンなので1ホールあたり7億4000万円、18ホールだと133億2000万円に。にわかには信じがたい金額ですが、コース造成から毎日のメンテナンスにかかる種や肥料、人件費も含めると、このくらいかかってしまうものなのかもしれません。

話が横道に逸れましたが、プロが対峙しているのはトーナメントコースと言われるトップクラスの名コースです。しかもプロの試合ともなれば、コースにとっては“晴れ舞台”なので、いつも以上に念入りにメンテナンスを行います。ツアー開催コースのグリーンキーバーは、試合前にはそれこそ寝食を削って、最高のグリーンに仕上げるのです。こうして完成されたなめらかな高速グリーンでは、同じところから同じ力加減でパットすれば、毎回同じコロがりをします。「読み切れる」、挑戦しがいのある面白いグリーンになるのです。

しかし、欧米では芝質やコース整備の考え方の違いで、そこまで同じコロがりをするグリーンはほとんどありません。日本ツアーで長く戦い、その後米ツアーでタイガーに勝って全米プロを制覇したY・E・ヤンが一時日本に帰ってきたときに、日本のツアー関係者に「日本のきれいなグリーンが恋しい」とこぼした事からも分かるように、日本ツアーのグリーンの完成度は世界一なのです。

読みどおりにパットすれば入るはずのグリーンに慣れていた谷原プロは、想定外のコロがりを見せる欧州ツアーのグリーンに苦戦。悩んだ末に出した結論は、エースだったセンターシャフトのスコッティ・キャメロンを封印し、感性で打てるピン型のパターにスイッチすることでした。

谷原秀人のパター変遷
左は2013年、パッティング絶好調時の谷原プロ。右は欧州ツアー挑戦中の2018年のもの(写真:Getty Images)

「日本はグリーンがきれいだから、狙ったところに打ち出せば入るんです。向こう(欧州)は全然違うところにいっちゃうんで。替えていなかったら、気持ちよく打ててなかったかもしれない」(谷原プロ)

欧州ツアーのシード権を失い、日本ツアーに復帰した谷口プロ。それでも勝利には至らず、21年に入ると10月の「日本オープン」まで14試合に出場して、トップ20入りはありませんでした。「もう勝てないのかなとか、つらい日々でした」と苦悩は続きました。

名手の技を引き出すパターと日本のグリーン

しかし、ある日のプライベートラウンドで11個のバーディを奪い、「やっぱりこれかな」と昔使っていたエースパターを復活させることにしました。多くの名手が愛するセンターシャフトのパターは、シャフトからフェース面までが真っすぐな構造。狙った方向に打ち出しやすいのが特長です。それを名手が使い、読みきったパットに応えてくれる最高のグリーンがある。谷原プロの勝利は、ある意味必然ともいえるものでした。

谷原秀人のエースパター
谷原秀人プロのエースパター。「スコッティ・キャメロン」ツアー支給限定のプロトタイプ

最終戦の最終日、谷原プロを最後まで追い詰めたのが、大会2勝の経験を持つ宮里優作プロでした。宮里プロはかつての谷原プロのようにパットに悩んでおり、直近では中尺パターに換えて本調子を掴みかけていましたが、いち早く本来のパッティングを取り戻していた谷原プロに一歩及ばす。プロゴルフの世界で繰り返される “パット・イズ・マネー”ということわざの正しさが、改めて証明された日でした。

谷原秀人が日本シリーズで優勝
勝ったどー!(写真:Getty Images)

【谷原秀人の優勝セッティング】※日本シリーズJTカップ2021優勝時

1W:本間ゴルフTW-GS(11.5°/ヴィザードTR-20/50X/46インチ)

3W:テーラーメイドM4(15°/ツアーAD BB/7X)

UT:キャロウェイAPEX UW(17°/ツアーAD UB/8X)


4,5I :本間ゴルフTR20P(DG EXツアーイシュー)


6I~10I:本間ゴルフTR20B(DG EXツアーイシュー)


A,SW:本間ゴルフTW-W IV(49,54,59°/DG EXツアーイシュー)


PT:スコッティ・キャメロン プロトタイプ

BALL:本間ゴルフTW-X


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