佳奈美の初めて始めてゴルフ〈入門〉「知らんがな、そんな事」第1話

第1話 違いますってば!

私は島村佳奈美、どこにでもいる平凡なOL。現在21歳。

得意な事も取り柄も何もない私。毎日は平々凡々にただ過ぎて行くだけ。何かしたいなあと思う事もあるけど、その何かは見つからない。結局はやりたい事など何もないのだ。

私は父の仕事の都合で中学2年の時に、大阪から東京に引っ越した。バリバリの関西弁だった私は、転校したその日から浮いてしまった。元々人見知りで、自分から進んで話しかけるという事が得意ではなかった私は増々、喋れなくなった。

お陰で地味で目立たない存在に拍車がかかり、そのまま高校を卒業し、就職した今もそのキャラのままだ。でも別にそれで困る事もないと私は思っている。人と関わるというのは何かと面倒なものだ。

「お、この子可愛いな!」

テレビを見ていた父がそう言ったのを聞いて私は視線をテレビに向けた。そこに映っていたのは女子プロゴルフの中継。父は少しばかりゴルフをやっている、と言っても練習に行くのはラウンドに回る日が近くなったときだけだ。要するに接待ゴルフである。私は再度テレビの画面に目を移す。

(ゴルフかあ…)

何が面白いのかさっぱり分からない。小さな球を棒で打ちながら、進んでいくだけのスポーツ、そういう認識でしかない。

「お父さん、ゴルフって面白いの?」
「うーん、楽しい仲間と回ればそれなりに楽しいと思うよ。でも父さんの場合、接待だからな、楽しんでいる余裕はない。こうやって可愛い女の子がプレイしているのを見てる方がずっと楽しい」
「ふーん」(不純だ…)
「何だ、興味あるのか?やりたいならクラブくらい買ってやるぞ」
「ううん、全然。だからいらない」
「そうか…」

両親共に、私が全くの無趣味でスポーツにもまるで興味を示さない事を昔から気にしている。中学高校共に学校と家を往復するだけの生活。友達が家に遊びに来た事すら一度もない、そもそも転校してから仲の良い友達など皆無だった。

大阪にいた頃は、もう少し喋っていたように記憶しているが、だからと言って、友達と離れて寂しいというほどの存在もいなかった。近眼だったせいもあるのか、目つきが悪いとよく言われ、普通にしているだけなのに怒っているのかと聞かれる事もよくあったのでそのせいもあるかもしれない。

そしてその生活は今も変わっていない。学校が会社に変わっただけだ。毎日同じ時間の電車に乗って、残業がない限りは毎日同じ時間の電車に乗って帰宅するだけの生活。何の楽しみもない毎日だ。自分でもこれで良いと思っているわけではない、でも今更変えられない。

新しい扉を開くのは勇気がいるし、その最初の一歩は中々踏み出せない。今までと同じ生活を続けている方がずっと楽なのだ。

でも昨夜、父とそんな会話をしたせいか、電車に乗っている時、窓から見える聳え立つようなグリーンの網がやけに目についた。正直、あれがゴルフの練習場だという事すら私は知らなかった。近くまで行けばわかるのだろうが、電車から見てる分にはグリーンの網が立っているだけ、野球のグランド何かかと思っていたくらいだ。全くスポーツに縁がない人間なんて、何に対してもその程度の認識しかないと思う。

そうしたら、何故か会社に行ってもゴルフの話題が出た。何だか続くときは続くものだ。と言っても私はその会話に加わっていたわけではなく、ただ聞いていただけだが。

部長が営業の木下さんに話しかけていた。

「木下君、今度の日曜ゴルフに行かないか?」
「あ、是非!」
「良かった、行こうと思っていたメンバーが急に一人来れなくなってね」
「全然空いてるんで行きます!暫くラウンド行ってなかったので、腕の方は…ですが」
「でも君は若いから、よく飛ばすからなあ。前に一緒に行ったときも、えらく飛んでたし、みんな吃驚してたよ」
「そのかわりOBばっかりでしたよ。ボール幾つ失くしたやら…成績も散々でしたし、トホホ」
「まあまあ、でも20代なんだし、すぐ上達するさ。まだ始めて1年だしな、仕方ないよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
(何を頑張るんだか…そんな事より仕事頑張る方がずっと得じゃない)

と、私が内心呟いていたら振り返った木下さんと目が合い、思わず下を向いた。

その日の昼休み、私はいつものように休憩室で母の作ったお弁当を一人で食べていた。そこに木下さんが入ってきた。自動販売機のお茶を買いに来たようだ。

「あ、島村さん!」
「どうも…」

木下さんは私より7歳上の28歳。いつも明るくて元気ハツラツといった感じの人で、すぐに誰とでも仲良くなるタイプ。私とは真逆の人だ、でも営業にはもってこいかも知れない。

「ねえねえ、ゴルフに興味あるの?」

昨日から二度目の質問だ、と私は思った。

「いいえ…」
「そう?今朝、部長との会話聞いていたみたいだから、もしかしてやってみたいのかなって思って」
「全然、思ってません」
「そうなの?面白いよ」
「私、協調性がないんで、誰かと一緒にやるスポーツってダメなんです。チームワークとか全然分からないし、合わせられないし」
「あ、それなら心配いらないよ。ゴルフは個人戦だから」
「個人戦?」
「そう、自分一人だけの戦い?みたいな」
「でも、今日部長にメンバーが足りないからって誘われていたじゃないですか」
「それは、一緒に回るってだけで、別にボールをパスしてみんなで一つのゴールに向かって進むわけじゃ無いから。失敗しても自分だけの責任だ」
「それって失敗しても、お前のせいで負けた、とか言われないって事ですか?」
「そうそう」
「ふーん」
「ちょっとは興味出た?」
「いえ、別に…」
「そうかぁ、残念。女の子が入ると楽しんいだけどなあ。うちの会社、ゴルフ女子全然いないし」

その週の土曜日、休日だったのだが私は忘れた携帯を取りに会社に出掛けた。別に放っておいてもどうせ誰からも掛かってきたりしないのだが、暇だった、というのもある。

休みの度に私が一日中家にいるから、母はしきりにどこか出かけないの?と聞いてくる。その質問の中に「デートぐらい行かないの?そういう相手はいないの?」という質問が見え隠れしているように思える。

それが煩わしくて、取りに来たというのもある。母は、私が出かけるとき何となく嬉しそうにしていた。(絶対、なんか誤解してる…)そう思ったが特に何も言わなかった。休日の会社は静まり返っていて、少し不気味だ。私はロッカー室に入って携帯を手に取ると早々に会社を後にした。

すぐに帰ると母がきっとまた「もう帰ってきたの?」というがっかりした顔をするのは目に見えてる。

どうしようかなと思いながらぶらぶらと歩き始めた。二十分ほど歩くと、いつも電車の窓から見ていた打ちっぱなしの前に来た。(ここかぁ…)

何気なく見上げていたら、駐車場に止まった車から木下さんが出てきた。(ゲッ!ヤバッ)

隠れようにも隠れる場所も見つからす、しっかり木下さんの目に留まってしまった。

「あれ、島村さんじゃないの?やっぱりゴルフに興味あるんじゃない!」
「いえ、違います!」
「いいからいいから、そんな恥ずかしがらないで。俺も明日久々のラウンドだから、ちょっと練習しておこうと思って。一緒に入ろう!」
「いえ、ホントに違います!私、クラブとか何も持ってないんで」
「大丈夫、レンタルあるから!」
「だから、違いますってば!」

抵抗もむなしく、私は半ば引きずられるようにして練習場の中に引き入れられた。

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