佳奈美の初めて始めてゴルフ〈入門〉「知らんがな、そんな事」第6話

第6話 いざ、ゴルフ場へ

当日の朝、私が少しソワソワして玄関先にいたら母が何だか意味ありげな笑みを浮かべて私を見た。

そこへ木下さんから間もなく家に着くというLINE.スマホを見た私を見て母の顔が益々嬉しそうになってる。

(絶対誤解してる~)

「お母さん、デートじゃないからね!」

「はいはい」

そんな母を残して私は家を出る。木下さんの車に乗ると少し緊張してきた。大丈夫なんだろうか。

「何?顔が強張ってるよ」

「私、本当に何も知らないんですけど…」

はっきり言って、どこまで興味があるのか?と聞かれてもきっとまだ殆どない。ゴルフが上手くなる為の練習サイトも色々あるようだが私はそれすらまともに見た事もない。

 一度見ようとした事はあるのだが、知らない用語ばかり出てくる。それをその都度調べるのが面倒になって見るのをやめた。初心者向きとかいうレッスンもあるが、最低限の用語は知っているという前提で進めているから途中で分からなくなって、もういいやって感じになってしまうのである。

「大丈夫、みんな最初は何も知らないから。兎に角、楽しめば良いよ」

「楽しむ…」

楽しめるのかどうかも疑問だが、もうここまで来たら後へは引けない。

 

 そして初めてのゴルフ場に到着。さて、どうするのだろう?

「ここでゴルフ場の人がバックを降ろしてくれるから、一人で来た時は入り口まで車で来て停まると、向こうが後ろのドア開けて出してくれるからね」

「自分で降ろさなくて良いんですか?」

「まあ、自分で降ろすところもあるけど、大抵はこうして待ってくれて降ろしに来てくれるから」

「そうなんですね!」

「で、俺は運転手だから、バッグを降ろしてもらったら、車を駐車場に停めに行く。君はここで降りて自分のバッグを持って、中の受付に行って手続きを済ませる」

キャディバッグ抱えて中入るんですか?」

「いやいや、そうじゃなくて。キャディバッグはそのままカートに積む為に持って行ってしまうから、身の周りの物を入れたバッグを持ってロッカー室に行って着替えるって事」

「あ、そ、そうなんですか」

車から降りると、ゴルフ場の人が丁寧に挨拶をしてくれた。何だか、高級なところに来た気分になる。そして同時にちょっと場違いな気分に。やはり敷居が高いと感じてしまうのは慣れていないからだろうか。

 そう思っていたら部長の車が目の前に止まった。

「おはようございます」

「やあ、おはよう。今日はよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

係の人が部長のキャディバックやカバンを降ろすと、部長もそのまま駐車場に向かった。

 凄くドキドキしてきた。周りにいる人達がみんなベテランに見える、私なんかが本当に一緒に回って良いのだろうかという不安が募る。

 そうして受付を済ませ、ロッカールームで買ったばかりのゴルフウエアに着替える。着替えて鏡を見ると、出来る人に見えてくる。でも周りの女性を見ると、何だかもっと格好良いように見える。

(ちょっと安物買い過ぎたかな…)

なんて思った。

着替え終わって、外に出ると部長と木下さんの姿が目に入った。

「島村さん、こっちこっち!」

「はい」

「パター練習してみる?」

「パター…あ、はい」

握った事もないクラブだ。でも昨日、その動画だけは見た。グリーンに乗ったボールを旗の立っている穴に入れれば良いという事は分かった。見てるときは凄く簡単そうに見えた。

 私はパタークラブゴルフボールを二個持って木下さんの後ろをついて行った。ボールを芝の上に置いて、パターでバンッと打つと勢いよく場外へ。

(え…?)

「プッ!島村さん、それじゃ大振り過ぎるよ!あのカップにボールを入れるんだから力加減考えないと、あと坂道だとか、どれだけ傾斜してるかとかも考慮してね」

(坂道、傾斜?何だ、それ?そんなの関係あるの?真っすぐ打てば良いんじゃないの?)

「おいおい、大丈夫かね」

後ろから部長が心配そうな声を上げる。

「大丈夫ですよ、部長。僕がフォローしますから」

「頼むよ~でも、まあ、今日は初心者がいるという事で、一番最後の組にしてもらったから後続の人に迷惑かける事もないが…日没には間に合わせてくれよ」

「はい」

(後続?日没?何の話?)

「あのさ、グリーンが右に傾斜してると真っすぐ打ってもボールが右に下がって行ってしまうんだよ、逆に左に下がってるとボールも左に行ってしまう。ボールが右に行く事をスライス、左に行く事をフックって言うんだ」

(フック?ス、スラ…何だっけ?)

「ま、このグリーンは真っすぐだからカップに向かって真っすぐ打てばいいよ。距離感考えてね、自分がどれくらいの力で打てばどれくらい転がるかを考えて打つんだ」

(???知らんがな、そんな事!)

最早、前途多難って気がしてくる私。

(帰りたい……)

そんな風に思い始めてる。それから何球か打ってみた。最初の玉が強すぎたという事は、もっと軽く打てば良いという事かと思って軽く打つとほんの五〇センチほどで止まった。

(え~~~?どうなってんのよ、もう!)

それからも何球か打ってみたが、カップには全く入らない、しかも全然狙い通りの方向にさえ行かない。

「木下君、そろそろ行った方が良さそうだよ。前の組も出たようだし」

「あ、そうですね。じゃ、島村さん、行こうか」

「…はい」

既に不安しかない。

「えっとね、受付でロッカーの鍵のついた手帳みたいなの貰っただろ?それ開けてみて」

「はい」

「これがスコアカードって言うんだ。自分の分と一緒に回っている人の打数をつけて行くんだよ。上にそれぞれの名前を入れて、打った分だけ記入する」

「人の分も書くって事は、全部数えるんですか?」

「数えるのは自分の打った分だけで良いよ、みんなそれぞれ自分の打った数を申告するってわけ、それを記入するんだ。で、打数が少ないほど成績が良いって事」

「成程、一回打つ度に数えるんですね」

「そう、本当は空振りも一打になるんだけど、今日は初めてだから、空振りは入れなくて良いよ。多分数えきれなくなるから(笑)。部長、島村さん、空振りは数に入れなくて良いですよね」

「ああ、構わんよ」

「はあ…そうですか」

(数えきれなくなるって…そんな沢山打つ人いるのか?)

「このスコアカードの横に数字が出てるだろ?五とか四とか三とか」

「あ、はい」

「それがパーショットの数」

「パーショット?」

「あ、えっとね、そのホールはその数で上がれればベストって事」

「成程」

「勿論、それを下回るスコアで上がれればさらに良いけどね」

(な~んだ、たったこれだけの数しか打たないのか)

なんて思っていた私。

(取り敢えず名前ね)

部長、木下さん、私、と。これで良いんだな。

「あ、名前はね、自分の名前を一番最初に書くんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「まあ、今日は別に良いけどね」

「はあ…」

そしていよいよ、本番へ。

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