佳奈美の初めて始めてゴルフ〈入門〉「知らんがな、そんな事」第8話

第8話 クラブとホール

「あの、クラブってどうやって使い分けるんですか?」

「それはぁ、自分でこのクラブで打つと、どれくらい飛ぶとかを練習で把握しておいて、残りの距離に合わせて選択するんだ。まあ、ボールがどんな場所に落ちたかでも変わるけど。ラフが深いとか、バンカーとかね」

「はあ…でも私は、今日はこれだけで良いと?」

私は手に握ったままの七番アイアンを見せて尋ねる。

「まあ、変えても良いけど。多分、どれで打っても飛距離変わらないだろ?なら同じの使った方が慣れて打ち易くなるから。それに今日はバンカーの中からは打たなくて良いよ」

確かに、どれで打っても全部同じくらいしか飛ばない。完全に見透かされてる。

「ウッドが良く飛ぶけど、安定してないところで打つのは難しいしね」

「ウッド?」

ドライバーもウッドなんだよ。島村さんのセットには四番ウッドも入ってたね、それにユーテイリィティも。ユーティリティとか使えるようになると結構便利だよ。ウッドとアイアンの中間みたいなクラブだから、どんな場面でも使えるし」

「へ~、そうなんですか。でも何回か振ってみましたけど、全然当たらなくて…」

「そっか、じゃ、今日はやっぱり七番で通そう。まあ、やってるうちに自分に何が合ってるか分かってくると思うし、色々欲しくなってくると思うよ」

「そういうもんですか」

「そういうもんだよ」

全然分からないが、兎に角、言われた通りにしておこうと思った。

 

 そして二回目のドライバーショット。さっきよりは飛んだ。私は胸を撫でおろす。

「お、さっきよりは前に進んだな」

「はい!」

ほんのちょっとの事なのに、何だか凄く嬉しく感じた。

 そうしてどうにかこうにか七打でグリーンに到着。とはいえギリギリグリーンに乗ってる感じで、グリーンの外に落ちている木下さんの球の方が遥かにカップに近い。

「ちょっと距離あるし、上りだからしっかり打った方が良いよ」

そう言われて、しっかり打った。すると球はカップの横を素通りして勢いよくグリーンの外へ。

「アチャッ!」

(しっかり打てって言ったじゃん!)

「いくら何でも、そこまで…」

(そんな加減が分かるくらいだったら苦労しないわよ!)

と、またも声に出さない反論。

「そっちは下がってるから、また今みたいに打つと今度は相当転がって行ってしまうからね!」

(え~~、下がってるとか上がってるとか、何なの~)

なんて、この時の私は言われる言葉全てがもう知らんがな、そんな事状態。勿論、ラウンドに来るという言うのに殆ど勉強もせず、知識もないまま来た私が悪いのだろうがそうは思い至らない。素人なんてこんなもんだ。

 結局、第二ホールは十三打だった。私の中ではさっきより四打も減った!という感覚。

「部長、ナイスパーですね、俺はまたしてもダボです」

「ありがとう」

(パーって事は四打って事か、それで木下さんがダボ?)

「あの、ダボって何ですか?」

「ああ、ダボって言うのはパーより二打多いって事なんだ。だから、六ね。ダブル・ボギーを略してそういうんだよ、ボギーだと一打オーバーなんで、ここだと五打って事になる」

「成程…ダブル・ボギーがパーより二打多く、ボギーが一打多いね…」

二ホール終わって、私が通算三十打、部長が九打で、木下さんが十二打、と。

(私、部長の三倍以上打ってる…)

「島村さんは、若いからやっぱり体力あるよねえ」

「え?あ、そんな事は…」

「でも島村さんがゴルフするとは意外だったね、うちの会社の女子達も、もっと進んでやってくれれば、会社でコンペなんてのも出来るのになあ」

「あ、それ良いですね!」

「島村さんが、これを機に率先してみんなに勧めてくれればみんなもやる気になるかもなあ」

「そ、そういうのは…」

「部長ダメですよ、今はそういう事言うと、パワハラとかセクハラとか、すぐ言われちゃいますよ」

「おっと、失言失言。最近は言葉選びも難しくていかんよ」

「うち、父が口悪いんで平気です。この前も一緒に打ちっぱなし行ったら、下手くそだとか、運動神経がないとか散々」

「え、お父さん?そりゃ良い。娘とゴルフなんてできたら最高だな。そうだ、良かったら次のラウンドにはお父さんも誘ってみたら」

「へ?い、嫌です!父とは絶対行きたくありません!」

思わず強い口調で言ってしまって、二人は顔を見合わせて笑った。部長とこんな近い場所でしかもプライベートな会話をしている事が、不思議に思えてくる。

(ゴルフって、なんか不思議…)

 

「島村さんって、会社にいる時とちょっとイメージが違うね。会社では全然喋らない子、って感じだけど」

「あ…まあ」

「あ、ねえ、島村さんって関西出身?」

今度は振り返りながら木下さんが質問してくる。そして何で分かったんだろうと思う私。

「え?」

「なんか、言葉のイントネーションが時々、それっぽいって言うか、違う?」

「中学二年まで大阪にいました」

「あ、やっぱりね」

「言葉、変ですか?」

もうすっかり関西弁は息をひそめてると思っていたのに、やっぱり分かってしまうのだろうか。

「全然、なんか可愛い感じする」

「え…?」

(か、可愛い?)

木下さんを男性と意識しているという事は全くないのに、男性から言われた事のない“可愛い”という言葉に過剰反応してしまう私。一気に頭に血が上り、顔が赤くなっているのが自分でも分かった。

 でもそんな言葉を放った木下さんは、何も気にする事なく、もう隣に座ってる部長とゴルフ談義をしている。そこでも私の知らない言葉が飛び交っている。私は顔の火照りを抑えようと、手で顔を仰ぐ。

(もう、なんでこんな事で赤くなってんのよ!)

その後も、私は殆どのホールで十打以上叩いてしまった。

ホールは全部で十八ホール。前半、後半に九ホールずつ分かれていてそれぞれハーフホールというらしい。九ホールの中に、パー四のミドルと呼ばれるホールが五つ。パー三のショートが二つ、パー五のロングが二つあるのが定番らしいが、たまにそうでないところもあるという事だ。

ハーフ三十六がオールパーだった場合のスコア。自分の成績を見てそれとはあまりに程遠いという事を痛感する。パーというのが平均値だと私は勝手に思っていた。

(全然無理~~)

それに私はどのホールのティショットでもドライバーを振っていたが、部長や木下さんはショートホールではアイアンで打っていた。それでも彼らはちゃんとグリーンまで届いていたが、私はドライバーで打っても全く届かなかった。まあ、木下さんはグリーンを軽く超えて、叫び声をあげていたが。

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