佳奈美の初めて始めてゴルフ〈基礎〉「知らんがな、そんな事」第12話

第12話 飛距離

「おはよう、島村さん」

「あ、おはようございます」

「練習してる?」

そう言いながら、木下さんはゴルフスィングの真似をする。

「はい」

「じゃ、第二ラウンド楽しみだね」

「いえ、それはまだ…もう少し練習してから…」

「練習も良いけど、やっぱりラウンドの数を増やすのが上達の近道だよ」

「そうなんですか?でもせめてもう少しまともに打てるようになってから回った方が楽しいような気がするんですけど…」

「ま、そりゃそうだ!」

そう言って笑った木下さんを見て内心そう思ってたんだと思う。

(やっぱ、そう思ってるんじゃん!)

微妙に悔しいと思っている私がいた。

 そして第二ラウンドなんてまだまだと思っている傍らで、可愛いマーカーグローブを既に購入している私。新しいゴルフウエアも買おうと思っている。

(どうせいるもんね、一着だけってわけにもいかないし)

などとすっかりまた次行くつもりになっているのだ。

 そうしてレッスンも回を重ねて行くと、クラブによって微妙に飛ぶ距離に違いが出てくるようになった。そうなるとまた一つ楽しくなった。

 

〇佳奈美の現在の飛距離

・ドライバー 百前後

・バフィー 八十~九十

・ユーティリティー 七十~八十

・七番アイアン 五十~六十

・九番アイアン 四十~五十

・PW・SW 三十~五十

ふと前方で練習している女性が目に入った。佳奈美よりは年上に見える三十前くらいだろうか、横顔がちらっと見えたが、結構美人。ちょうどドライバーで打つところだった。その女性が打った球は一八十と書いてる札を軽々と越えて行った。

(凄い!女性でもあんなに飛ぶんだ…!)

私も練習すれば、あんなに飛ぶんだろうか?もしそうなったら、

(気持ちいいだろうなあ)

しかし、いつになったら飛ぶのやらという気になる。最近はネットの動画も少し見るようになった。飛距離を出す方法で検索すると山のように出てくる。色々見たが、読んでてもさっぱり分からない物も結構ある。それでも幾つか分かり易そうなものを選びそれをメモして練習場で実践してみるのだが、自分ではその通りにしているつもりなのに全然上手くいかないどころか、元の方が飛んでるくらいだ。

(もう!全然ダメ!)

それでも球が右や左に行く事が殆どなくなった。飛距離はないが、ほぼ真っすぐ飛んでいるのだ。

 飛距離は未だそれほど伸びているわけではないが、正確に打てるようになると(自分でそう思っているだけだが)早く次のラウンドに行きたくなる。かと言って自分から行きましょうというほどの腕もない事は十分に自覚しているから誘う事は憚られる。

 

「佳奈美、どうだ?ゴルフは上達したか?また一緒に打ちっぱなしに行くか?」

「行かない」

「何でだ?」

「お父さん、口悪いから一緒に行きたくない」

「俺はお前の事を思って言ってるんだぞ」

「全然、そうは思えない」

「じゃ、一度一緒にラウンドでも行ってみるか?」

(ラウンド?)

ラウンドには行きたい、しかし父と一緒というのはどうにも気が進まない。最後には親子喧嘩で終わってしまうようにしか思えない。他人の言葉だと素直に聞けるのに、父親に言われるとどうも癪に障るのだ。

「絶対、行かない!」

「…そうか」

私の返答に父が少し寂しそうな顔をした。その表情に、ちょっときつく言い過ぎたかなと思ったが、元々父の方が人をバカにするから悪いんだと思った。

 でもそれから二週間ほどしたときに、木下さんが次の日曜日、ラウンドに誘ってきた。

「今回は部長が一緒じゃないから、ステーキは出ないと思うけど」

「部長は一緒じゃないんですか?」

「うん、俺の友達が二人一緒」

「え…でもそこに私が入って良いんですか?」

「勿論、可愛い女の子が来れば喜ぶ奴がいるから大歓迎」

(か…可愛い…?)

社交辞令だとは分かっていても、ちょっと嬉しくなっている私がいた。

「でも、まだ殆ど上達してないんですけど…お邪魔じゃないですか?」

本当は行きたくて仕方がないのだが、自分の腕を知ってるから知らない人と一緒に回る事に少し抵抗がある。

「全然、大丈夫!そういうの気にする奴らじゃないから。島村さんも少しでも沢山ラウンド回ると、ゴルフがもっと楽しくなるからさ」

「ありがとうございます!じゃ、是非!」

「良かった!じゃ、前と同じように朝、迎えに行くから」

「すみません、いつも。私、ペーパードライバーなんで、今度車の運転の練習もしなくっちゃって思ってるんです」

「そうなんだ。ま、一人で行くときは車ないと辛いからな。ゴルフ宅急便という手もあるけど、よほど遠方じゃない限り、自分で持って行ける方がやっぱり楽だしね」

「ですよねぇ」

「あ、今度行くのはこの前行ったゴルフ場とは別のところだから」

「そうなんですか?」

「うん、結構フラットで、アンジュレーションも優しいから初心者でも回り易いと思うよ」

「あ…はい」

(フラット?平って事かな?アンジュレーションってうねりだったっけ?って事は、うねりが少ないって事か。何だ、同じ意味じゃん。なんでゴルフってやたら難しく言うのかなあ…)

と、小さな心の呟き。

 とはいえ、またラウンドに行ける事に心が弾んでる。頑張って練習したから、前よりはずっと上手くなっている筈。

(いきなり百くらいになったりして!)

などと甘い事を考えている私がいる。

 家に帰ると私は早速、ネットで新しいゴルフウエアを注文。この間からずっと見ていて買おうかどうしようか迷っていたのだ。木下さんとは前に適当に買った服で一緒に回った。また同じ服で行くというのは絶対嫌だと思った。

(今日は火曜日だから、日曜日までにあと二回程は練習に行っておこう。あ、クラブ!)

クラブは打ちっぱなしに預けたままだ。また木下さんに取りに行ってもらうのも気が引ける。仕方ない、父に頼むしかないか、と思った。

(あ~あ、取りに行くだけじゃすまないだろうなぁ。絶対練習しろって言うよなあ…)

そう考えると気が重いが、背に腹は代えられない。

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