
第16話 スコア百二十
レッスン通ってるうちに、打ちっぱなしに来ている私と同年代らしき女性と何度か顔を合わせるようになった。四回目に顔を合わせた時に、向こうから話しかけてきた。
「今日は!」
「あ、こ、今日は…」
「最近、よく会いますね」
「あ、はい……」
人見知りの私は例え何度顔を合わせようと、自分から話しかけるなんて絶対にできない。
「私、この近くに最近越してきたんです。ここにはよく来られるんですか?」
「週一回、レッスン受けてるんで…でも来られない事もあります。あと、レッスン以外に時間があれば来る事も」
「そうなんですね!歳、幾つですか?同じ歳くらいかなって思ったんですけど、ちょっと私より若い感じ?私は二十三ですけど」
「二十一です」
「若ッ!」
それほど変わらないと思うが…。
「ゴルフはいつから始めてるんですか?」
「ま、まだ四ケ月くらいで…」
「私は一年半です、じゃ、年もゴルフ歴も私の方が先輩という事になりますね」
「はあ…」
「ラウンド行かれた事はあります?」
「はい、二回程」
「え?幾つでした?」
「あーそれは…」
とても人に自慢して言えるスコアではない事は十分に自覚している。
「私、初めて行った時なんて二百近く打ちましたよ!」
その言葉を聞くと、私の方がましかも?なんて思ったが、私は空振りを全部おまけしてもらったから、もし空振りを入れてたら、絶対に二百超えているという変な自信がある。
「わ、私もそれくらいでした…」
おいおいここで見栄張ってどうするんだ?という心の声もしたが、空振りを何回したかなんて記憶は全くないから答えようもないのだ。
「私、今で百二十前後、全然上手くならないの。でもなんか。楽しいのよねえ、今のところ目指すはオールダボなんてね」
「オールダボ…」
という事は百八という事か、私にはそれもまだまだ遠い先の事だ、百二十さえ全然届いていないのだから。
「私もそれくらいで回れると、周りに迷惑掛けなくて回れるのに…」
「あー分かる!自分だけ沢山打ってると、周りに悪い気がするもんね」
「そうなんです!」
「私も頑張る!目指せ煩悩!」
「煩悩?」
「アハッ、百八だから!」
「あ…」
思わず私も笑った。私とは正反対の明るい人だなと思った。それから練習場で顔を合わすと、話すようになった。彼女の名前は工藤弘美、旅行会社に勤めていて現在は一人暮らしらしい。地元は東京らしいが、兄が結婚してお嫁さんが同居する事になったのを機に家を出て一人暮らしを始めたという事だ。何度か話すうちに少しずつ親しくなっていった。
「ねえ、今度二人で一緒にゴルフ回らない?」
「え?」
「平日なら、結構安いよ。それに二サムでも割り増しなしのところも結構あるし」
「平日は仕事が…」
「あ、そっか!私は休みが不定期だから、でも土日は基本仕事かなあ」
「あ!でも今度会社のイベントで休日出勤があるので、代休取れるかも」
「ホント?じゃ、もし私の休みと合わせてとれそうだったら、行こうよ」
「あ…うん。でも、私、ホント、下手くそで…」
「大丈夫!私だって、まだ全然だもん。女同志だから、気楽に行こうよ、ね」
「うん、じゃ、行く!」
「やった!」
ちょっと不安もあったが、いつも木下さんのお誘いを待ってるばかりにもいかないしという思いもあったのだ。かと言って、自分から誘う相手がいるわけでもない。だいたい今の実力じゃ、誰かを誘うこと自体、図々しいようにさえ思えるのだ。でも父親と一緒に行くのだけはどうしても気が進まないし、なんて最近は思っていた。だからこんな風に誘って貰えるのは正直嬉しい。それに弘美とは歳も近いし、ちょっと楽しそうな気もする。今まで友達らしい友達も作って来なかった私には弘美という存在は、なんだかとても不思議な存在に思えた。
「なんか嬉しいなあ、一人暮らし始めてゴルフ友達が出来るなんて!」
「と、友達?」
「え?友達だよね?」
「そ、そうなんだ
「プッ!何か、佳奈美ちゃんって面白い」
(面白い?)
そんな事言われたのは初めてだ。ムスッとしててつまらないとは何度も言われてきたが。
でも一緒に行くまでにもっと頑張って練習しなくてはと思った。それに最近はよくYouTubeでやっているレッスンなんかも見ている。でもこれも色々見過ぎてしまうとさっぱり分からなくなってしまうのだ。何だかどれも違う事を言ってるような感じがして、何が正しいのか、どれが自分に合っているのかこんがらがってくる。
(あ~私もせめて百二十くらいで回れたらなあ…)
飛ばす事が全てではないとよく言われるが、やっぱり飛距離が伸びると全然違うように思える。だから今の私がよく見るのはどうやったら飛ぶのかを書いてあるサイトが多い。
(そう言えばこの間、米田先生は体重移動がどうのこうのって言ってたなあ)
〇体重移動(ドライバー)
・トップ時に右足にあった体重をインパクト時にはしっかりと左足に移動させること
(インパクト=ゴルフにおけるインパクトとは、クラブフェース面がボールに当たる瞬間の事。この時、ボールに的確に力が加わり、最もよくボールが飛ぶフェース面のポイントの事をスウィートスポットと呼ぶ。インパクト時にはこのスウィートスポットで、いかにボールをとらえるかという事が飛距離を伸ばすうえで重要)
上体の軸をブラさずに右足から左足へしっかりと体重移動。
・正しい体重移動は上体の軸はそのままに下半身で行う。特に股関節を意識する。そうすると体重移動で大きすぎる動きにはならない。
・間違った体重移動
インパクト時の体重が右足に残ったままスイングで体が左に流れる
体重移動を意識しすぎて動作が大きくなる
(もう、知らんがな~。そんなん理屈通りできたら苦労しないよ)
などと心の中で愚痴りながらメモを取って次に打ちっぱなしに行ったらやってみようと思っている。
(頑張るぞ、兎に角今は目指せ百二十だ)
そして二週間後、私は弘美さんと一緒にラウンドに行く事になった。
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ゴルフ仲間となった弘美とのラウンド。弘美のかわいいウェアにおしゃれ意識も上がり、益々楽しくなっていく。レジャー感覚のゴルフでのびのびとゴルフを楽しむ二人。
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ゴルフ歴5年(唯一の趣味)楽しくをモットーにゴルフをしています。まだまだ知らない事が多いですが日々精進?しています。