佳奈美の初めて始めてゴルフ〈基礎〉「知らんがな、そんな事」第18話

第18話 記録更新

「あ、島村さん」

昼休み、いつものように休憩室でお弁当を食べていたら同じ課の女性の琴原詩織が入ってきた。片手に弁当を持っている。彼女は大抵、外食か社食を利用している筈だが今日は弁当のようだ。

「私も偶には料理しようと思って」

「あ、そうなんですか」

琴原さんは私より四歳上の二十五歳。目鼻立ちの整った美人で男性社員にも人気がある。でも結構物事をはっきり言う人なので煙たがっている男性も少なくはない。

「島村さんはいつもお弁当ね。偶に外で食べたいとか思わないの?」

「あんまり…母がお弁当作ってくれるので」

「え?お母さんが作ってくれるの?良いなあ、お母さん優しいんだね」

「父の分を作るからついでだそうです」

「ふーん。ところでさ、島村さん、最近なんか雰囲気ちょっと変わった気がするんだけど、何か良い事あった?」

「え、と、特には…」

「そう?何か表情が明るくなった感じがする。あ、分かった!」

「な、何ですか?」

「彼氏できたんでしょ!」

「は?ま、まさか!」

「違うの?」

「全然、違います!」

「ホント?何か前よりずっと楽しそうなんだけどなあ」

「そんなに変わりました…?」

「うん、きっとみんなも思ってるよ。やっぱ何かあった?」

「あったというか…最近、ゴルフ始めたんです」

「ゴルフ?島村さんが?」

「はい、変、ですか…?」

「あ、ううん。そうじゃないけど、ちょっと意外。何となくインドアっぽいイメージだったから。へ~ゴルフか、楽しい?」

「はい!凄く。でも全然上手くならなくて、レッスンも行ってるし、サイトでも色々調べて実践したり、YouTubeも見たりしてるんですけど」

「へえ~、いつからやってんの?」

「えっと、今で五ケ月くらい」

「ラウンドは何回入ったの?」

「三回です」

「成程ね、上手くなる近道は兎に角ラウンドに行く事かな」

「え?琴原さんってゴルフやった事あるんですか?」

「大学の時ゴルフサークルに入ってたの」

「え?じゃ、やめちゃったんですか?」

「んーやめたわけでもないんだけど。大学出てから一度もクラブ握ってない、もう三年になるかな。入社当時はそれどころじゃなくて、そしたら仲間ともちょっと疎遠になっちゃって…」

「もうやらないんですか?」

「まあ、またやりたいなって最近は思い始めてるんだけど」

「じゃ、やりましょうよ!」

「へ?」

「あ、す、すみません。つい…」

思わず言葉が出てしまった。私の前のめりな姿勢に琴原さんはクスッと笑った。自分でも柄にないなと思う。やっぱりゴルフを始めてからちょっと変わったのかなと自分でも思った。

「そうだね、やってみようかな。島村さん、一緒に行ってくれる?」

「わ、私なんて、まだまだ上手くなくて」

「ラウンドたった三回で、そんなに上手かったら吃驚よ。大丈夫大丈夫」

「あ、じゃ、わ、私なんかで良かったら…」

「ありがと。あ、でもこの事は他の人には内緒ね!」

「え、?どうしてでですか?」

「だって、接待ゴルフとかに駆り出されたくないんで。私、オッサンにおべんちゃら言うの苦手だから」

そう言って琴原さんは肩を竦めた。私はその言葉に思わず笑ってしまった。

 そしてその二週間後の土曜日に私は琴原さんと一緒にラウンドに行く事になった。

美人でスタイルの良い、琴原さんがゴルフウエアを着た姿は凄く格好良かった。

(アン・シネみたい…)

と思わず心の中で呟く私。ロビーにいる男性達がみんな琴原さんに視線を注いでいるように見えた。

そうして一打目、琴原さんの打ったボールは遥か遠くに飛んで行った。二百ydは軽く超えていると思った。

「凄~い!」

「実はね、久々だから、ちょっと打ちっぱなし行って練習してきたんだ」

「あ、そうなんですか」

やっぱりサークルに入っていただけの事はある、と思う。前に一緒に行った留美さんも弘美さんも私から見ると凄く上手く見えたが、全然違うというのが分かる。

 ちょっと恥ずかしいな、と思いながら構えて素振りをしたら琴原さんの声が伸びてきた。

「ダメダメ、もっと腰を入れて、背筋を伸ばす!腕は曲げない!」

「あ、はい!」

そう言ってクラブを上げるとまたしても…。

「ダメよ、もっと腰を捻って!上半身だけよ、お臍から胸にかけての部分ね、肩が後ろ向くような感覚で思いっきり!」

「こ、こうですか?」

私はこれでもかというくらい腰を後ろに捻る。なんだかまともに打てるような気はしないが…。

「そうそう、その腰の捻転、大事だから!」

(捻転…?)

「そのまま腰を元に戻す反動にクラブがついてくる感じで振り下ろすの」

(よ、よく分からん…ええい、ままよ!)

クラブを振り下ろした瞬間、いつもと違う感覚が走った。そうしてクラブヘッドに当たったボールが良い音を立てて飛んで行った。

(え…?)

「ナイスショット!」

(メッチャ飛んでる…何?)

「凄いじゃない、一八〇yd超えてるよ!」

「あ、ありがとうございます」

 

〇捻転

・膝から下は動かず上半身が向きを変える事。(肩は九十度、腰は四十五度の捻転差が理想)

・バックスイングで腰が右にスライドしてしまうと腰が回り過ぎて肩との捻転差が少なくなり、飛距離ロスとなる。

 しかしながら肩と腰は繋がっているので、腰の動きを抑制し過ぎると、肩も回らなくなるので注意。意識的に腰を右に回すと肩もより深く回転するので。ヘッドスピードも速くなる。

(右足のつま先を外側に開くほど、バックスイングで腰を右側に回転させやすくなる。およそ十五度程度に開く)

・戻るときは腰から先に正面に戻すを意識する。すると腰の動きに引っ張られるように肩がついてきて、腰が飛距離方向に向き始めた頃に両肩はやっと元の位置に戻り、インパクトの瞬間を迎える。遅れてやってきた上半身と共に、クラブヘッドも最後にやってくるので、その分だけクラブヘッドに加速がつく事になる。

 

 その後も、琴原さんの厳しい?指導を受けながら回ったせいか、なんと、この日のスコアは百三十八、初めて百三十台になった、記録更新だ。きっと琴原さんのコーチングのお陰である事は言うまでもないだろう。

(凄い、来る度にスコア上がってる。この調子で来てれば、来年の今頃は百?なんて…)

などとまたしても甘い事を考えていたが、一長一短には行かないと言っていた弘美さんの言葉をこの先、嫌と言うほど感じる事になる。

 そして琴原さんのスコアは九十一だった。さすがだなと思ったが、「ブランクあると腕鈍ったわ」なんて言っていた。

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