佳奈美の初めて始めてゴルフ〈基礎〉「知らんがな、そんな事」第20話

第20話 父と一緒にラウンド

「お父さん、絶対に横でゴチャゴチャ言わないでよ!」

「言わないよ」

「アドバイスも何もいらないからね!」

「分かってるって」

本当に分かってるのだろうかと思う。他人に言われると素直に聞けるのだが、父に言われるとどういうわけか逆らいたくなる。

 と言っても、父と二人だけというのは、何となく気恥ずかしくて弘美さんも誘った。ただ日曜日だからどうかなとは思ったが、都合よく休みが取れるという事で、即答で参加OKの返事が来た。私はついでに父に弘美さんの分のプレー代も出してと言った。可愛い女の子だよと言うと二つ返事でOKした。やっぱり単純だ。

 ロッカー室に入ると、ちょうど弘美さんが着替えをしていた。

「あ、おはようございます」

「おはよう!今日は誘ってくれてありがとう」

「こちらこそ、来てくれてありがとう。父と二人だけなんて、ちょっと、ねえ…」

「あら、良いじゃない。うちの父なんて、ゴルフなんて全くしないから、親子で行けるなんて羨ましい」

「そうかなあ…」

「今日も頑張ろうね、今日こそは百切り!なんてね」

弘美さんの最近の自己ベストは百六。昨年言っていた目標百八はクリアしている。私は取り敢えず百二十切る事が当面の目標。百三十超えるくらいまでは結構スムーズに来たのに、そこからずっと行ったり来たりで止まってる。百二十以下にはなかなか進んでくれない。

 着替え終わって、カートまで行くと父がすでにパター練習を始めていた。私は弘美さんと一緒に父に近づいて行く。

「お父さん、弘美さんだよ」

「あ、初めまして。娘がいつもお世話になっています」

「こちらこそ、工藤弘美です。今日は宜しくお願いします」

「こちらこそ」

父親と友達と一緒にゴルフをするなんて、やっぱりちょっと変な感じがする。

 そして第一打目、父も弘美さんもまずまずといった感じ、でも私の打球は完全ゴロ。

「あ…!」

やっちゃった、父に変なところを見せて何か言われたくないと思ったら、余計に力が入ってしまったみたいだ。きっとまた何か言われると思いながら後ろにいた父を見たが特に何も言わなかった。弘美さんがいるから少しは気を遣っているのだろうか。

 でもセカンドショットは上手く当たって、そこそこ飛んでくれた。

「おー、ナイスショット!」

でも父にそう言われると、どう返して良いのか分からなかった。うちの親はあまり褒めるという事がなかったので、変な感じだ。

 私も最近になってようやく「ナイスショット!」とか「ナイスイン!」という言葉が声に出して言えるようにはなったのだが、父に対しては口ごもってしまう。お互い、褒め合うという事に慣れていないからどうにも居心地が悪い。だからと言って、決して仲の悪い親子だと思っているわけではない、極々普通の家族だと思う。きっと両親は私に何かあったら、全力で守ってくれるという事も分かっている。私も将来、親に何かあったら支えて行けるようにはなりたいとも思っている。でも、それを口に出して言う事はない、大体そんな事、面と向かっては恥ずかしくて言えないし、言われてもどう返して良いのか分からない。そういう構図がうちの家族には出来上がっているのだ。

 そうして前半ハーフが終わった。弘美さんは五十三、父は四十七、私は父のスコアにへえーと思った。いつも接待ゴルフしか行ってないと言っていたから、正直もっと下手くそだと思っていた。

(ハーフ五十切れるんだ)

などと思った。そして私は、なんと五十八、初めてハーフ六十を切った。内心小躍りしていたのだが、父の手前、ものすごく普通を装っていた。

「佳奈美、なかなかやるじゃないか」

「そう?どうせ、もっとどんくさいとか思ってたんでしょ?」

「まあ、ドライバーももっと飛ばないと想像してたが、案外まともに打ってて感心した」

「一打目はゴロだったけどね」

「お前、打つとき左足の踵、少し浮かせるだろ?最初見た時、あれのせいかとも思ったけど、その後上手く打ってたし、あれはあれで良いんだなと思った」

「ああ、あれ?YouTubeで見て、試しに練習したら、今までよりずっと飛んだんで、それからずっとそうしてる」

「成程。まあ、確かに体が回転しやすくなるから、上手くいけばそっちの方が飛ぶかもな」

「あ、うん」

貶されるのかと思ったら、そうでもなかった。実は練習場で知らないおじさんに、両足をしっかり地面につけて打て、なんて注意された事が何度かあったのだ。でも自分的にはこちらの方が打ち易いので、今じゃすっかりこの打ち方が定着してしまってる。どうしても飛距離が出ないときにYouTubeを見て、少し試したら、今までより全然飛んでそれからずっとこの打ち方だ。

 

〇左踵を上げるスイング(ヒールアップ)

・ヒールアップすると右足に全体重が乗る、その分体を後ろに回転しやすくなる。

 (昔のプロは殆ど、このヒールアップで打っていたがクラブの軽量化と進化と共にヒールアップしなくても飛ぶようになったので、現在ではヒールアップして打つ人は少なくなった。ヒールアップすると方向の安定性が下がるというデメリットもあるからだ)

「弘美さんは、ゴルフ歴はどれくらいなんですか?」

と、父が質問する。

「あ、私、やっと三年目に入りました」

「結構、筋が良い。なんて僕も上手いわけじゃないので、偉そうな事は言えませんけど」

「いえ、そう言ってもらえると嬉しいです」

父も弘美さんも楽しそうにしていて、私は来て良かったと思った。それにハーフ六〇切り(やった~!)、それだけで来た甲斐があるというもんだと思うくらい、気分は上昇していた。

 午後からも順調に進み、途中バンカーに二度ほど入ったが、二度とも一回で出せて父が感心していたので少し気分が良かった。

 結果、父は四十六でトータルスコア九十三、弘美さんは五十二でトータル百五、ベスト更新ならずで少し悔しがっていた。そして私は、なんと午後も五十九でハーフ六十切りにギリギリ成功、初めて百十七と百二十切りに成功、ベストスコア更新した。

(やった~~~!)

完全に気分は舞い上がっていたが、やはり父がいるので平静を装う私。でも頭の中にいる私は完全に浮かれまくっていた。

(フゥッフフ~ン♪)

これならまた父と一緒に来てあげても良いかと、思った。

 

島村佳奈美 二十二歳 ゴルフ歴 一年半。ベストスコア百十七.

 

目指せ!百切り!

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