佳奈美の初めて始めてゴルフ「知らんがな、そんな事」全話まとめ

この記事では、初心者ゴルファー佳奈美が一人前のゴルファーを目指し、日々奮闘するゴルフ小説「佳奈美の初めて始めてゴルフ「知らんがな、そんな事」」をまとめています。

佳奈美の初めて始めてゴルフ〈入門〉まとめ

第1話 違いますってば!

私は島村佳奈美、どこにでもいる平凡なOL。現在21歳。

得意な事も取り柄も何もない私。毎日は平々凡々にただ過ぎて行くだけ。何かしたいなあと思う事もあるけど、その何かは見つからない。結局はやりたい事など何もないのだ。

私は父の仕事の都合で中学2年の時に、大阪から東京に引っ越した。バリバリの関西弁だった私は、転校したその日から浮いてしまった。元々人見知りで、自分から進んで話しかけるという事が得意ではなかった私は増々、喋れなくなった。

お陰で地味で目立たない存在に拍車がかかり、そのまま高校を卒業し、就職した今もそのキャラのままだ。でも別にそれで困る事もないと私は思っている。人と関わるというのは何かと面倒なものだ。

「お、この子可愛いな!」

テレビを見ていた父がそう言ったのを聞いて私は視線をテレビに向けた。そこに映っていたのは女子プロゴルフの中継。父は少しばかりゴルフをやっている、と言っても練習に行くのはラウンドに回る日が近くなったときだけだ。要するに接待ゴルフである。私は再度テレビの画面に目を移す。

(ゴルフかあ…)

何が面白いのかさっぱり分からない。小さな球を棒で打ちながら、進んでいくだけのスポーツ、そういう認識でしかない。

「お父さん、ゴルフって面白いの?」
「うーん、楽しい仲間と回ればそれなりに楽しいと思うよ。でも父さんの場合、接待だからな、楽しんでいる余裕はない。こうやって可愛い女の子がプレイしているのを見てる方がずっと楽しい」
「ふーん」(不純だ…)
「何だ、興味あるのか?やりたいならクラブくらい買ってやるぞ」
「ううん、全然。だからいらない」
「そうか…」

両親共に、私が全くの無趣味でスポーツにもまるで興味を示さない事を昔から気にしている。中学高校共に学校と家を往復するだけの生活。友達が家に遊びに来た事すら一度もない、そもそも転校してから仲の良い友達など皆無だった。

大阪にいた頃は、もう少し喋っていたように記憶しているが、だからと言って、友達と離れて寂しいというほどの存在もいなかった。近眼だったせいもあるのか、目つきが悪いとよく言われ、普通にしているだけなのに怒っているのかと聞かれる事もよくあったのでそのせいもあるかもしれない。

そしてその生活は今も変わっていない。学校が会社に変わっただけだ。毎日同じ時間の電車に乗って、残業がない限りは毎日同じ時間の電車に乗って帰宅するだけの生活。何の楽しみもない毎日だ。自分でもこれで良いと思っているわけではない、でも今更変えられない。

新しい扉を開くのは勇気がいるし、その最初の一歩は中々踏み出せない。今までと同じ生活を続けている方がずっと楽なのだ。

でも昨夜、父とそんな会話をしたせいか、電車に乗っている時、窓から見える聳え立つようなグリーンの網がやけに目についた。正直、あれがゴルフの練習場だという事すら私は知らなかった。近くまで行けばわかるのだろうが、電車から見てる分にはグリーンの網が立っているだけ、野球のグランド何かかと思っていたくらいだ。全くスポーツに縁がない人間なんて、何に対してもその程度の認識しかないと思う。

そうしたら、何故か会社に行ってもゴルフの話題が出た。何だか続くときは続くものだ。と言っても私はその会話に加わっていたわけではなく、ただ聞いていただけだが。

部長が営業の木下さんに話しかけていた。

「木下君、今度の日曜ゴルフに行かないか?」
「あ、是非!」
「良かった、行こうと思っていたメンバーが急に一人来れなくなってね」
「全然空いてるんで行きます!暫くラウンド行ってなかったので、腕の方は…ですが」
「でも君は若いから、よく飛ばすからなあ。前に一緒に行ったときも、えらく飛んでたし、みんな吃驚してたよ」
「そのかわりOBばっかりでしたよ。ボール幾つ失くしたやら…成績も散々でしたし、トホホ」
「まあまあ、でも20代なんだし、すぐ上達するさ。まだ始めて1年だしな、仕方ないよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
(何を頑張るんだか…そんな事より仕事頑張る方がずっと得じゃない)

と、私が内心呟いていたら振り返った木下さんと目が合い、思わず下を向いた。

続きはこちら

第2話 何やってんだ?

「うーん、何番借りる?」
「え……何番って?」

クラブに番号があるのか?(知らんがな…そんな事)と、私は心の中で呟く。
(やった事もないんだから!クラブを触った事もない私に聞くな!)

心の中だと、言いたい事を言えるのにそれは決して声にはならない。私が黙っていると木下さんは受付に向かった。

「じゃ、レディースの七番で」
(レディース?何だ?それ、私はそんなところには入ってないぞ…)
「じゃ、行こう!」(行かない~~~!)

とは言えず、私はそのまま木下さんの後ろを歩く。

「じゃ、打ってみようか?」
「え…?」

無理だろう!いくら何でも、クラブ持った事もないんだぞ、そこのところ分かって言ってるのか?と声にはならない反論をまたしても試みる私。

「兎に角、振ってみて」
「はあ……」

何だかよく分からないが、渡されたクラブを持ってみる。

「あ、そうか!まずはクラブの持ち方からだね!」
(決まりがあるのか?)
「こうして、まず左手で握って、親指以外の指の付け根がクラブに当たるようにね」

私は見様見真似で木下さんの言う通りにクラブを握る。

「じゃ、打ってみよう」
「は?」
「まあ、最初は素振りからとか色々言う人もいるけど、まずは打ってみないとね。当たると面白くなるから。とはいえ、俺もまだたった一年の初心者に近いレベルだから教えられるほどの腕もないけどね。兎に角、思い切り振ってみて」

私は言われた通り、クラブを上から打ち下ろすように振った。するとクラブに当たった球が前に飛んだ。

「お、当たった!」

当たったって、そりゃ当たるだろ、止まってる球を打つだけじゃないか。この時、私はそう思った。

「じゃ、そのまま適当に打っていて。俺は前のボックスで練習してるから」(はあ~?そんな無責任な!)

と思うが、帰るに帰れず私はそのまま出てくる球を打ち続けた。取り敢えずは当たる、どれだけ飛んでるかというのはさっぱり分かってないが、当たれば良いんだというくらいの認識である。(私、何やってるんだ…)

なんでこんなところで興味すらないゴルフの練習をしているのか正直自分でも分かってないのだが、これも成り行き、しかし一体、どれだけ打てば良いんだろう。私はただひたすらクラブを振って球を打ち続けた。結構疲れる、でも止まって良いのかどうかも分からない。

続きはこちら

第3話 何故かレッスンへ…

翌日の日曜、私は再度打ちっぱなしに赴いた。何故向かったのか自分でも不思議だったのだが、昨夜、PCで読んだ事を実践すれば、昨日よりもっと飛ぶ気がしたのだ。それをどうしても試したくなった。

ところが、だ!昨日書かれていた通りに実践したつもりなのに、今度は当たらなくなった!なんと空振り三振!どころではない、振っても振っても当たらない!何だ、あれは?折角、読んでやったのに!などという、当たりどころのない怒りが込み上げてくる。

よ!これじゃあんなの見る前の方がましじゃない!)

私の空振り様を見て、周りのみんなが笑っているような気がする。そう思うと顔を上げるのも恥ずかしくなった。

「ちょっと、君」

声を掛けられて振り返ると見知らぬオッサン。

(誰だ…?)

「ゴルフ初めて?」

「あ…はい…」

「だろうね、あれじゃ駄目だよ。むやみに振ったって当たるわけもない」

(でも昨日は当たったのよ!)

という声が喉まで出かかる。

「じゃ、クラブを持つところから始めようか?」

「え?」

「ほらほら、早く!」

「あ、はい」

何で?という心の声とは裏腹に断れない私は言われるままにクラブを握る。

「あ~ダメダメ。もっとしっかり握って。それから右手は添える程度ね、左手片手で振るイメージで」

(何でよ?私右利きだよ。当然右腕の方が力あるじゃん!)

「それから打つとき、体が伸びあがってるから、あれじゃ球に当たらないよ、両足はしっかり床につけて腰を落として、腕で振らないで、体を捻って遠心力で打つ感じ」

(???)

さっぱり分からない。正に知らんがな、そんな事、って感じだ。

「ほら、こうやって腰を後ろに回す感じ」

見知らぬっオッサンが腰を回して見せる。

「ほらほら、真似してみて」

「はい…」

(何なの~誰なの、このオッサン。知らないんだけど~)

と思うものの、言われるままクラブを振ってみる。

「そうそう、そのまま素振り十回ね」

「は?」

(何であんたに命令されなきゃいけないのよ)

と、思いつつも私はその言葉に従って素振りを十回。つくづく反論できない自分の性格が恨めしい。

「じゃ、そのまま同じ姿勢でボール打ってみて」

「はい」

そして打ってみると、明らかに昨日より飛んだ!

(嘘!)

「ほうら、当たった!その調子で何度か打ってみて!」

「はい!」

球が高く飛んだ事ですっかり気を良くした私。我ながら単純だとは思うけど何だか気分が良い。とはいえ、そのまま全部が全部当たったわけではないが、昨日は全然空振りしなかったのに、今日はやたらと空振りをしてしまう、でも当たれば昨日よりは確実に飛んでいる。

続きはこちら

第4話 買っちゃった…

まさか自分がゴルフを始めるなんて、一週間前には微塵も思っていなかった。

なのに無料とはいえ、レッスンに行ってる自分がいるなんてなんだか不思議だ。

 それにレッスンは無料とはいえ、練習場を使うのは無料ではない。料金制度は打ちっぱなしによって変わるようだ。入場料を取るところもあれば、ボール代だけのところもある。そのボール代にも結構ばらつきがあるという事を最近知った。

 まあ自分で調べたのだが。今は最初に行った、会社と家のちょうど中間近くにある打ちっぱなしに行ってるがもっとうちから近い便利なところがないのかとネットで探してみて、料金が一律ではない事を知った。千円でボール何球とか、何球分幾らみたいなカードを買って好きなだけ打って、残った分はまた次に使えるみたいなところと、二時間打ち放題で幾らとかいうところもあったりした。何が得なのかは自分の練習の仕方次第だろうと思う。ボールの値段は一球六円くらいのところもあれば、その倍するところもあって、それも決まってない。

 要するに、無料とはいえ、全く無料でできるという事ではない、でも取り敢えず今は、この無料レッスンを暫く受けてみるつもりでいる私がいる。有料レッスンもあるようだ。無料レッスンは指定された時間に行けば誰でも受けられる、まあワンポイントレッスンのようなものだ。有料レッスンは、三十分だがマンツーマンで付きっ切りで教えてくれるらしい。多分、そっちの方が速く上手くなれるとは思うが、目下のところ、そこまでお金を出す気もない。続けると決めたわけでもないのだから。

 などと思いながらも、最近家に帰ってはパソコンでゴルフショップのサイトばかり見ている私がいる。見て吃驚だ。本当にピンキリ、一本何十万もするクラブがあるかと思えばセットで数万くらいのもある。

「どんな良いクラブ持っていても腕が伴わないとね」

そう言った、米田先生の言葉が胸を過る。行く度にレンタルするのがなんだかなあと思い始めてるのだ。改めて周りを見回すとみんな自分のクラブをちゃんと持って来ている。でもあんな大きな荷物持って電車になんて乗れない、買ったらどうやってあれを持って通えば良いのだ?という新たな疑問が沸く。そう言えばみんな車で来ていた。

 私も車の免許は持っている。高校を卒業してすぐに取った。でも、肝心の車はない。買ったところでうちの車庫には父の車が居座っている。だから置き場所もない、それに特に必要もないのだ。という事で、現在私は免許を取ったきりのペーパードライバーだ。だからすぐ運転も出来ない、というのが現実。

「う~~~っ!」

私は思わず頭を抱えて呻いた。

(でも…欲しい)

そんな思いが私を支配する。物が欲しいと思ったのも正直久しぶりだ、ブランド物は勿論、ファッションにも殆ど興味がない。洋服は奇抜でなく着られればなんでも良いとさえ思っているくらいだ。

 そんな事を思いながらも、私はサイトを見続けて、ふと目が留まった。

続きはこちら

第5話 成り行きで…

スタンドに立って、自分のキャディバッグを置くと、何だか今までよりちょっと偉くなったような気分になる。もうフロントでクラブを借りなくて良いんだ!と思うだけで“やってる人感”みたいなものを持ってしまう。しかし、いざ打ち始めてみると…

「ブハッ!何だ?そのヘッピリ腰!」

私が一球目打った時の、父の第一声はこれだった。確かに空振りだったが、そういう言い方はないんじゃないのか?こっちは初心者だぞ!

「腕が曲がってるんだよ、腕が!背中も丸くなってるし、婆さんみたいだぞ!」

(ムカッ!)

「ほら、もう一度打ってみろ!」

言われた通り、私はもう一度クラブを振る。今度は当たった、でも球は地面を這うようにして転がって行っただけ。

「下っ手くそだなあ。そう言えばお前昔っから、運動神経なかったよな、運動会もビリから数えた方が速かったし、ってか殆どビリだったっけ?まあ、参加する事に意義があるというが(笑)」

(ムカムカッ!)

「煩いなあ、お父さんが見ていると気が散るのよ!あっち行ってて!」

「折角、見てやってんのにそういう言い方はないだろ」

(どっちがだ!)

と思いながら、私はもう父を完全無視して練習を始める。私が怒ったので父は暫く黙って見ていたが、前のボックスに立って打ち始めた。

カキーン!

(凄い!飛んでる!)

などと、当たり前の事に吃驚している私。私もいつかあんな風に飛ぶようになるのだろか、あんなに飛んだら気持ち良いだろうな、なんて思ってしまう。 

でも前の席にいる父が時々振り返っては私を見ている。その顔がどうにも馬鹿にしているように感じてしまう。

「お前なー、力み過ぎなんだよ。もっと肩の力抜いて打ってみろよ。それじゃ飛ぶものも飛ばないぞ、それにクラブはちゃんと振り切る!それからボールをちゃんと見て!顔を上げるのが速過ぎ!」

(知らんがな、そんな事…)

私は一度顔を上げて父を見たが、返事はせずにもう一度クラブを振った。

続きはこちら

第6話 いざ、ゴルフ場へ

当日の朝、私が少しソワソワして玄関先にいたら母が何だか意味ありげな笑みを浮かべて私を見た。

そこへ木下さんから間もなく家に着くというLINE.スマホを見た私を見て母の顔が益々嬉しそうになってる。

(絶対誤解してる~)

「お母さん、デートじゃないからね!」

「はいはい」

そんな母を残して私は家を出る。木下さんの車に乗ると少し緊張してきた。大丈夫なんだろうか。

「何?顔が強張ってるよ」

「私、本当に何も知らないんですけど…」

はっきり言って、どこまで興味があるのか?と聞かれてもきっとまだ殆どない。ゴルフが上手くなる為の練習サイトも色々あるようだが私はそれすらまともに見た事もない。

 一度見ようとした事はあるのだが、知らない用語ばかり出てくる。それをその都度調べるのが面倒になって見るのをやめた。初心者向きとかいうレッスンもあるが、最低限の用語は知っているという前提で進めているから途中で分からなくなって、もういいやって感じになってしまうのである。

「大丈夫、みんな最初は何も知らないから。兎に角、楽しめば良いよ」

「楽しむ…」

楽しめるのかどうかも疑問だが、もうここまで来たら後へは引けない。

 そして初めてのゴルフ場に到着。さて、どうするのだろう?

「ここでゴルフ場の人がバックを降ろしてくれるから、一人で来た時は入り口まで車で来て停まると、向こうが後ろのドア開けて出してくれるからね」

「自分で降ろさなくて良いんですか?」

「まあ、自分で降ろすところもあるけど、大抵はこうして待ってくれて降ろしに来てくれるから」

「そうなんですね!」

「で、俺は運転手だから、バッグを降ろしてもらったら、車を駐車場に停めに行く。君はここで降りて自分のバッグを持って、中の受付に行って手続きを済ませる」

キャディバッグ抱えて中入るんですか?」

「いやいや、そうじゃなくて。キャディバッグはそのままカートに積む為に持って行ってしまうから、身の周りの物を入れたバッグを持ってロッカー室に行って着替えるって事」

「あ、そ、そうなんですか」

車から降りると、ゴルフ場の人が丁寧に挨拶をしてくれた。何だか、高級なところに来た気分になる。そして同時にちょっと場違いな気分に。やはり敷居が高いと感じてしまうのは慣れていないからだろうか。

 そう思っていたら部長の車が目の前に止まった。

続きはこちら

第7話 初めてのラウンド

「ほら、あのドライバー打つ位置、ティーグランドっていうんだけど、そこに青とか白とかの杭が打ってあるだろ?」

「はい」

「あれがボールを打つ位置なんだ。黒が一番後ろで、基本的にはプロが打つ場所。その次が青で、まあ、アマチュアクラスかな。俺達でも打たしてもらえる。でもまあ、一般的には男性は白からで、女性は赤い杭が打ってある所から打つんだ」

「あの金色の杭は何ですか?」

「ああ、あれはシニアクラスの打つ場所、だいたい六十五歳以上なのかな、なんか明確な定義はないようだけど」

・白色のティー レギュラーティー

・赤色のティー レディースティ

・シルバー(ゴールド)ティー シニアティー

・青色のティー バックティー

・黒色のティー フルバックティー

・黄色のティー 特設ティー

(ふーん、あれをティーって言うのか)

「じゃ、私はあのちょっと前にある、赤いティーのところから打つんですね」

「そういう事、ティーが右と左に分かれて二つあるだろ?それを線で結んで、その間に自分のティーを刺して、そこにボールを置いて打つ。このとき気を付けなくてはいけないのが、そのティーとティーとを結んだ線より、前から打っちゃいけないんだ。後ろはどれだけ後ろでも良いんだけどね」

「へえ~、そうなんですか」

なんて話してる間に、部長がティーグランドに立った。

「前の組が自分の打った球が絶対に届きそうにないところまで進んだら、打っても良いんだよ。逆に早く打ったら危ないからね、ゴルフボールって結構固いし、勢いもあるから当たると大怪我どころで済まない事故も起きたりするから」

「分かりました」

「じゃ、今日はよろしく頼むよ」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

部長と木下さんが声を掛け合っていた。

(へえ~打つ前に挨拶するのか。さすがマナーのスポーツ!)

「あの、一球打つ度に挨拶するんですか?」

「いや、そこまでしないよ。まあ、朝のラウンド始める時と、午後のラウンド始める時の二回位かな」

「そうなんですね!」

そうして部長と木下さんが最初の一打を打ち、いよいよ私の番になった。

(ダメだ…心臓が波打ってる!)

ドキドキが半端ない、こんなにドキドキしたのなんて人生で初めてではないかと思えるくらいだ。部長と木下さんの視線がジッとこっちを見ているのを感じて更に緊張してしまう。練習を思い出せば良いんだ、と自分に言い聞かせる。最近では結構当たるようになってきていた、同じように打てば良いだけだ。そう思って私はクラブを振りおろした。

続きはこちら

第8話 クラブとホール

「あの、クラブってどうやって使い分けるんですか?」

「それはぁ、自分でこのクラブで打つと、どれくらい飛ぶとかを練習で把握しておいて、残りの距離に合わせて選択するんだ。まあ、ボールがどんな場所に落ちたかでも変わるけど。ラフが深いとか、バンカーとかね」

「はあ…でも私は、今日はこれだけで良いと?」

私は手に握ったままの七番アイアンを見せて尋ねる。

「まあ、変えても良いけど。多分、どれで打っても飛距離変わらないだろ?なら同じの使った方が慣れて打ち易くなるから。それに今日はバンカーの中からは打たなくて良いよ」

確かに、どれで打っても全部同じくらいしか飛ばない。完全に見透かされてる。

「ウッドが良く飛ぶけど、安定してないところで打つのは難しいしね」

「ウッド?」

「ドライバーもウッドなんだよ。島村さんのセットには四番ウッドも入ってたね、それにユーテイリィティも。ユーティリティとか使えるようになると結構便利だよ。ウッドとアイアンの中間みたいなクラブだから、どんな場面でも使えるし」

「へ~、そうなんですか。でも何回か振ってみましたけど、全然当たらなくて…」

「そっか、じゃ、今日はやっぱり七番で通そう。まあ、やってるうちに自分に何が合ってるか分かってくると思うし、色々欲しくなってくると思うよ」

「そういうもんですか」

「そういうもんだよ」

全然分からないが、兎に角、言われた通りにしておこうと思った。

 そして二回目のドライバーショット。さっきよりは飛んだ。私は胸を撫でおろす。

「お、さっきよりは前に進んだな」

「はい!」

ほんのちょっとの事なのに、何だか凄く嬉しく感じた。

続きはこちら

第9話 チップイン!

そうしてやっとの事で午前中のラウンドが終わった。

「お腹空きましたね、部長」

「確かに、もう一時半だからな。スタートが十時三十七分だったから、約三時間か」

「結構かかっちゃいましたが、大丈夫ですか?」

「前もって、言ってあるからね。今日くらいは大目に見てくれるだろう」

(三時間は長いのか?普通はどれくらいで回るんだろう)

「部長はここのメンバーなんだよ。だから少しくらい融通が利くんだ」

木下さんがそう耳打ちした。

(メンバーって何だ?)

「あ、島村さん、ここここ!」

そのまま、中に入ろうとした私を木下さんが呼び止めた。

「ここで、靴の裏に付いた土や草を払ってから中に入るんだ」

そう言って、木下さんが細い鉄の棒を持って靴に付着した汚れを落として見せた。

「でないとクラブハウスの中が汚れるからね」

「あ、そうなんですね。分かりました!」

木下さんがやっていたのと同じようにして靴底の汚れを落として、私は化粧室に向かった。するそこの鏡の横に張り紙がしてあるのが見えた。

〈ハーフ二時間一五分以内を心掛けましょう〉

そう言えば、朝も見ていたが何の事か分かっていなかった。

続きはこちら

第10話 初ラウンドを終えて

家に帰った私は今日のラウンドの事を思い返す。散々だった、走り回って、土ばかり掘っていたような気もする。それでもあのカップに入った瞬間の高揚は最高だった。確か、木下さんがチップインとか言ってた。

・チップイン グリーンへのアプローチショットがそのままカップインする事。

(成程成程。で、アプローチショットって何だ?)

・アプローチ グリーンの周りからボールをグリーンに乗せてカップに寄せるために打つ一番短いショットです。

(ほうほう、そういう事か)

結局、言葉の意味は殆ど理解しないままやっていたのだ。

(まずは、えっと、マーカーとか言ってたな。部長も木下さんもなんか、お洒落な物持ってたなあ)

「別にコインでも良いんだよ」

なんて木下さんは言ってたが、誰もそんなの使ってなかった。

・ゴルフマーカー 自分のボールの後ろに置いて、ほかのプレーヤーがパッティングする時の邪魔にならないように使用するアイテム

(成程ね…)

ゴルフショップのサイトに飛んでゴルフマーカーと入力すると、色んな物が出てきた。値段も色々だ、キャラクター物や個性的な物や、凄く可愛い物もある。名前を入れてくれるところもあるみたいだ

(うー迷う!どれが良いんだ?)

取り敢えず、次のラウンドまでに買えば良いんだと、一端、サイトを閉じる。

 そうだ、部長が何度か言っていたあの言葉。

続きはこちら

佳奈美の初めて始めてゴルフ〈基礎〉まとめ

第11話 アドレス

「ほう、初ラウンドに行ってきましたか。どうでした?」

「もうワチャワチャでした。知らない事多すぎて…ボールも全然、飛ばないし、思った方向には行かないし、ここで練習してるときはもう少しましだと思ったのに」

「そうですか、嫌になりました?」

「なりましたぁ、自分が出来なさすぎて…」

「楽しくはなかったですか?楽しむゆとりなんてなかったですかね?」

「それが…結構楽しかったんです!」

ステーキのお陰かも、とは口に出さなかった。

「それは良かった。ゴルフが上手くなる一番の秘訣は楽しむ事ですよ」

「ホントですか~」

「本当です」

そう答えると米田さんは何だか意味ありげな顔をして私を見た。

「な、何ですか?」

「島村さん、なんか表情が変わりましたね」

「え?そうですか?」

「ええ、良い感じです」

「はあ…」

(何が良い感じなんだろう?)

「あの、先生、私、有料レッスン受けようと思うんですけど…」

「あ、初ランド行ってやる気になりましたか?」

「やる気って言うか…もう少しましになりたいなあって」

「分かりました、一緒に頑張りましょう」

「ありがとうございます!宜しくお願いします」

「今まではワンポイントレッスンでしたが、これからは基礎からきちんとやり直しましょう」

「あ、はい」

「分からない事はその都度聞いて下さい、後回しにしたら、聞きたい事って忘れてしまいますから」

「分かりました」

そうして私は有料レッスンを受ける事にした。やっぱり上手くなりたいと思ってしまったのはラウンドに行ったせいだろう。

「思った方向に飛ばないって言ってましたね」

「はい」

「じゃ、ちょっと打ってみましょう。どの方角に打つか決めたら、いつも通り打ってみて」

私は先生に言われた通り、ボールにクラブを合わせて、取り敢えず真っすぐ飛ぶようにマットと並行に立って先生に打つ方向を言ってからクラブを振った。でもボールは真っすぐ飛ばず、左側に飛んで行った。

続きはこちら

第12話 飛距離

「おはよう、島村さん」

「あ、おはようございます」

「練習してる?」

そう言いながら、木下さんはゴルフスィングの真似をする。

「はい」

「じゃ、第二ラウンド楽しみだね」

「いえ、それはまだ…もう少し練習してから…」

「練習も良いけど、やっぱりラウンドの数を増やすのが上達の近道だよ」

「そうなんですか?でもせめてもう少しまともに打てるようになってから回った方が楽しいような気がするんですけど…」

「ま、そりゃそうだ!」

そう言って笑った木下さんを見て内心そう思ってたんだと思う。

(やっぱ、そう思ってるんじゃん!)

微妙に悔しいと思っている私がいた。

 そして第二ラウンドなんてまだまだと思っている傍らで、可愛いマーカーとグローブを既に購入している私。新しいゴルフウエアも買おうと思っている。

(どうせいるもんね、一着だけってわけにもいかないし)

などとすっかりまた次行くつもりになっているのだ。

 そうしてレッスンも回を重ねて行くと、クラブによって微妙に飛ぶ距離に違いが出てくるようになった。そうなるとまた一つ楽しくなった。

続きはこちら

第13話 第二ラウンド(上)

前回同様、木下さんが迎えに来てくれた。七時に来ると言っていたから六時起き、普段ならまだ寝ている時間、寝起きは決して良い方じゃないのに六時前にはしっかり目覚めた。ゴルフに行けると思うと早起きも苦にならない、不思議なものだ。まるで遠足に行く子供みたいだ、と思った。

 ゴルフ場について着替えを済ませる。この間のウエアよりずっと可愛いと我ながら悦に入る。それにネットで調べたカウンターなる物を買った。グローブに付けて、打つ度に押していくと幾つ打ったか覚えなくても大丈夫という事だ。前回は一ホール終わる度に、幾つ打ったか必至で数えていた。

カートに向かうと木下さんと他の二名が談笑していた。一人は女性だった。てっきり二人共男性だと思っていたから、一瞬え?っと思った。

「あ、島村さん。紹介するよ、この二人は俺の大学の同期、同じサークルに入ってたんだ。ゴルフじゃないけどね。こっちは大輔、加納大輔、それでこっちが」

「松田留美です、宜しくね」

「あ、こちらこそよろしくお願いします。島村佳奈美です、あの、全然下手くそなんですけど…」

「大丈夫、楽しみましょう」

「ありがとうございます」

「若そうだね、幾つ?」

「あ、二十一です」

「若い!ピチピチしてる!良いねえ」

「お前、それセクハラ!」

「あ、ゴメン。今日は頑張ろうね」

「はい、宜しくお願いします」

答えながら、私は再度女性の方を見る。何となくどこかで見たような気がする。

続きはこちら

第14話 第二ラウンド(中)

結局、第一ホール(ミドル)は十一打。そのうちパターが四打だ。練習の時、一打でカップインしたのは夢だったのではないかと思った。

木下さんはバンカーで二度打って合計八打(五オン三パット)、加納さんがプレー四から打ってグリーンにオンして七打(四オン三パット)、松田さんが六打(三オン三パット)だった。

・プレー四 ティーショットがOBだった場合、設置してある特設ティーから四打目として打つ事が出来る。

(ウェーン、毎回十打もいってたら、十八ホール終わる頃には百八十超えちゃうじゃん…)

と心の中で嘆く私。

「三人共、三パットとはね~」

「留美は三オンしてるから勿体ないなあ」

「でもカップまで遠すぎたもん」

「あのロングパットが決まれば格好良いのに」

「朝の佳奈美ちゃんみたいにね」

(私、四パットだったんですけど~)

とまたまた心の中で返す私。

 第二ホール(ミドル)は九打だった。うちパターが三打。それでもさっきより減ったと少し安堵する。

 木下 六打(四オン二パッド)

 加納 六打(三オン三パット)

 松田 七打(四オン三パット)

・第三ホール(ロング)

佳奈美 十打(六オン四パット)

木下 七打(四オン三パッド)

加納 六打(四オン二パット)

松田 七打(四オン三パット)

「う~三連続三パッド…」

スコアを付けながら留美が独り言のように唸っていた。

続きはこちら

第15話 第二ラウンド(下)

ビールを飲んだせいか、テンションが少し上がった。

「午後からも頑張ろうね!」

「はい!」

「あ、あの松田さん、」

「留美でいいわよ、何か松田さんって呼ばれると職場にいるみたいだから」

「あ、はい。私、この間、練習場で、ま、じゃない留美さん見ました」

「え、あ、そうなの?」

「はい、女の人なのに凄いなあって思って見てました」

「留美は中身男だからなあ」

「ちょっと、大輔!」

「アハッ!」

「あ~、佳奈美ちゃん笑うと可愛い!」

(え…か、可愛い…?)

女性に言われても顔が火照ってしまう。

(ん?待てよ…という事は私ってもしかして褒められる事に慣れてないだけ…?)

そう、私は今まで極力人と関わらないようにして生きてきたのだ、だからこんな風に誰かと、ましてや初対面の人と一緒にランチを食べている事さえ考えてみたら不思議な話しだ。

続きはこちら

第16話 スコア百二十

レッスン通ってるうちに、打ちっぱなしに来ている私と同年代らしき女性と何度か顔を合わせるようになった。四回目に顔を合わせた時に、向こうから話しかけてきた。

「今日は!」

「あ、こ、今日は…」

「最近、よく会いますね」

「あ、はい……」

人見知りの私は例え何度顔を合わせようと、自分から話しかけるなんて絶対にできない。

「私、この近くに最近越してきたんです。ここにはよく来られるんですか?」

「週一回、レッスン受けてるんで…でも来られない事もあります。あと、レッスン以外に時間があれば来る事も」

「そうなんですね!歳、幾つですか?同じ歳くらいかなって思ったんですけど、ちょっと私より若い感じ?私は二十三ですけど」

「二十一です」

「若ッ!」

それほど変わらないと思うが…。

「ゴルフはいつから始めてるんですか?」

「ま、まだ四ケ月くらいで…」

「私は一年半です、じゃ、年もゴルフ歴も私の方が先輩という事になりますね」

「はあ…」

「ラウンド行かれた事はあります?」

「はい、二回程」

「え?幾つでした?」

「あーそれは…」

とても人に自慢して言えるスコアではない事は十分に自覚している。

続きはこちら

第17話 第三ラウンド

当日は弘美さんが家まで迎えに来てくれた。やはり車の運転の練習もしなくてはと改めて思う、これはやはり父にお願いしするしかない、全く気が進まないがこんな事頼める人間は他にいない。こういう時は、友達がいれば頼れるかもと少し思う。

 弘美の着ているウエアはすごく可愛くて、何だかプロっぽく見えた。

(格好良い…)

「何?どうかした?」

「あ、ウエア可愛いなと思って」

「そう?良かったぁ、私、格好から入るタイプなんで。昔ね、テニスしようと思った時もめっちゃ可愛いウエアや靴買い揃えたんだよ!でも二回でやめちゃった!」

「二回?」

「うん、なんか性に合わなかったみたい。結構飽き性なのかな?すぐ投げ出しちゃう、でもゴルフは続いてるの、自分でも不思議」

「そうなんですか。でも私もそんな感じです、きっと続かないと思ってたのに、最近そういうサイトもよく見るようになったし、なんか我ながら不思議な感じ」

「分かるゥ!いつもの自分と違うって気付いてあれ?って思っちゃうよね?」

「そうなんです、私ってこんな事するんだ!って自分で思ったりしちゃいます。今までYouTubeなんて見た事も無かったのに、今はゴルフの動画とか見たり」

「あ~一緒一緒!ま、兎に角、今日は頑張ろうね」

「はい!」

(やっぱ私ももっと可愛いウエア買おうかな…)

ファッションなどについぞ興味のなかった私がこんな事を思ったりするのも、やっぱりちょっと不思議、なんて思った。

 平日にゴルフに来るのは初めてだ。いつもよりずっと空いている事に驚いた、安いからもっと混んでいるかと思ったが、やはり仕事している人は平日には無理って事なんだ。平日に行ける人って、空いてる上に安いって何かズルいなあなんて思ってしまった。

続きはこちら

第18話 記録更新

 

「あ、島村さん」

昼休み、いつものように休憩室でお弁当を食べていたら同じ課の女性の琴原詩織が入ってきた。片手に弁当を持っている。彼女は大抵、外食か社食を利用している筈だが今日は弁当のようだ。

「私も偶には料理しようと思って」

「あ、そうなんですか」

琴原さんは私より四歳上の二十五歳。目鼻立ちの整った美人で男性社員にも人気がある。でも結構物事をはっきり言う人なので煙たがっている男性も少なくはない。

「島村さんはいつもお弁当ね。偶に外で食べたいとか思わないの?」

「あんまり…母がお弁当作ってくれるので」

「え?お母さんが作ってくれるの?良いなあ、お母さん優しいんだね」

「父の分を作るからついでだそうです」

「ふーん。ところでさ、島村さん、最近なんか雰囲気ちょっと変わった気がするんだけど、何か良い事あった?」

「え、と、特には…」

「そう?何か表情が明るくなった感じがする。あ、分かった!」

「な、何ですか?」

「彼氏できたんでしょ!」

「は?ま、まさか!」

「違うの?」

「全然、違います!」

「ホント?何か前よりずっと楽しそうなんだけどなあ」

「そんなに変わりました…?」

「うん、きっとみんなも思ってるよ。やっぱ何かあった?」

「あったというか…最近、ゴルフ始めたんです」

「ゴルフ?島村さんが?」

「はい、変、ですか…?」

「あ、ううん。そうじゃないけど、ちょっと意外。何となくインドアっぽいイメージだったから。へ~ゴルフか、楽しい?」

「はい!凄く。でも全然上手くならなくて、レッスンも行ってるし、サイトでも色々調べて実践したり、YouTubeも見たりしてるんですけど」

「へえ~、いつからやってんの?」

「えっと、今で五ケ月くらい」

「ラウンドは何回入ったの?」

「三回です」

「成程ね、上手くなる近道は兎に角ラウンドに行く事かな」

「え?琴原さんってゴルフやった事あるんですか?」

「大学の時ゴルフサークルに入ってたの」

「え?じゃ、やめちゃったんですか?」

「んーやめたわけでもないんだけど。大学出てから一度もクラブ握ってない、もう三年になるかな。入社当時はそれどころじゃなくて、そしたら仲間ともちょっと疎遠になっちゃって…」

「もうやらないんですか?」

「まあ、またやりたいなって最近は思い始めてるんだけど」

「じゃ、やりましょうよ!」

「へ?」

「あ、す、すみません。つい…」

思わず言葉が出てしまった。私の前のめりな姿勢に琴原さんはクスッと笑った。自分でも柄にないなと思う。やっぱりゴルフを始めてからちょっと変わったのかなと自分でも思った。

続きはこちら

第19話 一年後

ゴルフを始めて一年が過ぎた。予定では百二十以下になってる筈だったが…今、現在の私のスコアは百二十~百三十をウロウロしている。自己ベストは百二十三、これがキャリア二年の女子で良いのか、悪いのか、平均的な数字なのかもよく分からない。

 でも昨年始めた時と比べると雲泥の差だとは思う。そして何より変わったのは周りの環境だ。“友達”と呼べるかどうか分からないが、仲間が出来た。ゴルフ仲間だ。完全インドア派だった私が、外に出るようになったのだから。しかも最初はゆとりがなくて全く見ていなかったが、最近はゴルフ場の景色を見るゆとりも出てきた。まあ、ゆとりなどと言うと、どこかからまだまだ、って声が聞こえてきそうではあるが。

 でも一年前の私は自分がこんな風になるとは思ってもいなかった。それに車の運転の練習もした。お陰で今は迎えに来てもらわなくても、自分で行けるようになった。と言っても車は父の車であるが。もしゴルフをしなかったら、一生ペーパードライバーで終わっていたかもしれないと思う。

 そして今は、次いつゴルフに行けるのだろうかと、楽しみで仕方がない。

雨の日のゴルフも経験した。ゴルフは少々の雨でも決行になる。 雨天順延とはならない、ゴルフ場がクローズにならない限りキャンセル料がかかるからだ。特に日祝日はキャンセル料が高い、1週間前からキャンセル料五千円くらいとられるところがある。勿体なくて、キャンセルにできない、というのが本音だ。完全キャンセルじゃなくて、延期で別の日を予約するならキャンセル料掛からないというゴルフ場もある。稀に当日キャンセルでもキャンセル料なしのところもあるようではあるが、かなり少ない。

今のところ、私はキャンセルをした事はない。でも雨の日のゴルフは散々だった、午前中はポツポツだったのだが、午後からは本降り、球を打てば水しぶきまで上がるし、全然飛ばない。合羽は来ていたが、下着までずぶ濡れになっていた。でも誰もやめようとは言わなかった。女子ばかりで行っていたからかもしれない。女子はこういうところがめつい。やめたら、お金が勿体ないと思ってしまったのだ。一緒に行ったのは、弘美さんと琴原さんと琴原さんの大学時代の友達の成瀬清美さんという人た。

 弘美さんと琴原さん達は初対面、私も琴原さんの友人とは初対面。でもゴルフって、こういうの全然気にならない、それが今でも不思議に思える。人見知りの筈だったのにと。

 続けるかやめるか、何度か口には出たが、何だかんだ言いながら結局一ラウンド回り切った。

続きはこちら

第20話 父と一緒にラウンド

「お父さん、絶対に横でゴチャゴチャ言わないでよ!」

「言わないよ」

「アドバイスも何もいらないからね!」

「分かってるって」

本当に分かってるのだろうかと思う。他人に言われると素直に聞けるのだが、父に言われるとどういうわけか逆らいたくなる。

 と言っても、父と二人だけというのは、何となく気恥ずかしくて弘美さんも誘った。ただ日曜日だからどうかなとは思ったが、都合よく休みが取れるという事で、即答で参加OKの返事が来た。私はついでに父に弘美さんの分のプレー代も出してと言った。可愛い女の子だよと言うと二つ返事でOKした。やっぱり単純だ。

 ロッカー室に入ると、ちょうど弘美さんが着替えをしていた。

「あ、おはようございます」

「おはよう!今日は誘ってくれてありがとう」

「こちらこそ、来てくれてありがとう。父と二人だけなんて、ちょっと、ねえ…」

「あら、良いじゃない。うちの父なんて、ゴルフなんて全くしないから、親子で行けるなんて羨ましい」

「そうかなあ…」

「今日も頑張ろうね、今日こそは百切り!なんてね」

弘美さんの最近の自己ベストは百六。昨年言っていた目標百八はクリアしている。私は取り敢えず百二十切る事が当面の目標。百三十超えるくらいまでは結構スムーズに来たのに、そこからずっと行ったり来たりで止まってる。百二十以下にはなかなか進んでくれない。

 着替え終わって、カートまで行くと父がすでにパター練習を始めていた。私は弘美さんと一緒に父に近づいて行く。

「お父さん、弘美さんだよ」

「あ、初めまして。娘がいつもお世話になっています」

「こちらこそ、工藤弘美です。今日は宜しくお願いします」

「こちらこそ」

父親と友達と一緒にゴルフをするなんて、やっぱりちょっと変な感じがする。

続きはこちら

佳奈美の初めて始めてゴルフ〈初級〉まとめ

第21話 ティの高さ

私は島村佳奈美、現在二十五歳。私は基本的に人と関わるのはあまり好きではなく、休みの日となると殆ど自宅の自分の部屋で、ネットサーフィンか本を読んで過ごすという完全インドア人間だった。

 それが三年前ゴルフを始めてからその生活環境が変化し始めた。成り行きでゴルフを始める事になった私は、完全とは言わないがインドアではなくなった。仕事の帰りに打ちっぱなしに行ったりする。また、会社にもそれ以外にもゴルフ仲間という友達が出来た。一緒にショッピングに行ったり、時には食事したりするようにもなった。

 ゴルフを始めた事で日常が変化するなんて思ってもみなかった。本来なら非日常な日が日常になったのだ。そしてそれは凄く楽しい。

 でもゴルフの腕前の方は日に日に上達しているかというと、そういうわけでもない。日進月歩とはよく言ったものだと思う。稀に良いスコアが出て、この調子で行けば!なんて思っていたら、次は最悪のスコアになったりとまるで安定しない。でもその度に次こそは、と思うからやめられない。まあ、今のところやめたいとは全然思っていないのだけれど。

 この三年でクラブ本数が増えた。サイトを見たり、ゴルフショップに行ったりして、これだともっと飛ぶんじゃないかと欲が出てしまうのだ。どんなにクラブの性能が良くても、腕が伴わないとダメな事も分かっていても、腕が上がらないからクラブに頼ってしまうのだ。とはいえ、しがないOLの身でそれほど高いクラブも買えないのであるが。中には目が飛び出そうなくらいの価格の物あるのだから。

〇佳奈美の現在の飛距離と持っているクラブ

・ドライバー 百五十~百八十yd

・スプーン(三番ウッド) 百三十~百五十yd

・バフィ(4番ウッド)百二十~百四十yd

・クリーク(五番ウッド) 百三十yd前後

・ショート (七番ウッド) 百十~百二十yd

・ユーティリティ 百二十yd前後

・五番アイアン 百二十yd前後

・七番アイアン 百yd前後

・八番アイアン 九十~百yd

・九番アイアン 八十yd前後

・PW 六十~七十yd

・SW 六十yd前後

・Aw 四十~五十yd

・PT

私のゴルフクラブは全部で十四本になった。十四本も入れる日があるのだろうかと思っていたが、いつの間にか十四本になっていた。でもこれを全部使っているかというと、ほぼ使っていないクラブがある。ドライバーの次に使うのはスプーン、サードショットは残りの距離にもよるがだいたい七番ウッド、アプローチショットは殆どPW、バンカーではAWである。バフィは全然使わなくなった、アイアンも使う事がかなり少なくなった。どうやら私はウッドが好きなようだ。そして持っているサンドよりアプローチウエッジの方がバンカーから出し易い。バンカーでミスをする事が多く、色々サイトを見てて見つけたクラブだ。バンカーから出し易いクラブとなっていて買ってしまった。でも使ってみたら、本当に私には合っていたのか、バンカーでのミスが格段に減った。だから今はバンカーで使うクラブはほぼこれ、ただこれを使うのは砂が深い所や、顎の高いバンカーだ、理由はボールが高く上がるからだ。その分、全然飛ばない。ユーティリティはほぼ使わなくなったのだが、フェアウエイにある、比較的フラットなバンカーではユーティリティを使う事がある。これは一度キャディさんと一緒に回った時、勧められて打ったら、上手く当たって飛んでくれた事が切っ掛けだ。

続きはこちら

第22話 ハンデキャップ

次のラウンドで私は新しく買い直した、以前使っていたのとほぼ同じ高さのティを早速使用した。球は、上に上がらず普通に飛んでくれた。

(やっぱりティの高さだったんだ…)

あのティは予備まで買ってあったから、計六本、勿体ないがお蔵入りだ、飛ばなくなっていた原因が分かって嬉しい反面、損をしたという気持ちも湧いた。勉強不足に他ならない。やっぱりまだまだ気付かないでいる事が沢山ある。直面しないと意識しないという事なのだ。未だにそれ何?って思う言葉が出てくるのだ。その最たるものはハンデ。何度か説明を受けたが、どうにもよく分からない。下手な人が上手い人と同等に勝負できるようにという仕組みらしいが、何だか色々あって分かりにくい。

 まあ、いつもプライベートで行ってるだけだから、ハンデというものを付けてコースを回った事がないから覚えられないのかも知れないが。

〇ゴルフ ハンデキャップとは?

ゴルファーの技量を示す数字である。数値が低いほど上手く。大きいほど下手という事になる。

・ハンデ0 クラッチゴルファー(プロ並みの実力者)

・ハンデ一~九 シングルプレイヤー(上級者)

・ハンデ十五~二十 アベレージゴルファー(スコア百前後)

◎オフィシャルハンデ 公的な効力を持つハンデ

◎略式ハンデ  レベルを問わず誰でも得られる機会がある

 ゴルフは実力がスコアに反映するスポーツ。初心者がいきなり、アンダーパーを出したり、上級者が大叩きをしたりするという事は、全くないとは言わないがまず少ないと言えるだろう。コンペをするときなどはこの略式ハンデを用いる事が殆どである。老若男女、上級者~初心者が同じ舞台で競技を楽しむためにハンデによってスコア調整をするのである。

 略式ハンデとは、新リペア方式とか少々複雑な計算によって算出するほか、過去の実績によって主催者が決めて行くものとがある。

・グロススコア 実際のスコア

・ネットスコア 実際のスコアからハンデを引いたもの

  例 実際のスコア 九十五 ハンデ二十=ネットスコア 七十五

・正式な順位はこのネットスコアで決められるが大抵の場合はベスグロというものがもうけられていて、実際のスコア、ベストグロスの人にも賞を用意している事が多い。

 このハンデがあるので、初心者にも優勝のチャンスがあり、コンペも盛り上がる事になる

今となっては少々分かってるつもりだが、グロスとかネットとか最初は本当にチンプンカンプン。ネットと言われて頭に浮かぶのは網だけだった。

 但し、ハンデの何たるかは分かったが、ダブルぺリア(新ぺリア)とか新新ペリアとか、キャロウェイ方式とかは未だによく分かってはいない。

(知らんがな、そんな事)

を何度呟いた事か。口で説明されてもどうにもその場では分かりにくい。

続きはこちら

第23話 力まない意味

家に帰った私は、ウッド、ミスと入力してネットで色々検索したみた。どこも既に試した事のあるような記事しか見つからない。

(何が駄目なんだろう…)

ゴルフはセンスだ、なんていう人がいる。

(センスないのかなあ…)

その不調はしばらく続いた、というか一向に改善しなかった。だからスコアはずっと百二十前後をウロウロしている。他のみんなはどんどん上手くなっているのに自分だけが取り残されているような気分になる。

 何か解決方法はないかと、色んなサイトを見たが参考になりそうなものはなかった。半年近くその状態が続いた。

 そんな時、何気なく見た動画があった。今度はウッドでミスをしない方法では検索せず、ウッドを上手く打つ方法で検索したらできて動画だ。

・肩の力を抜く

そんなのはずっとやってる、と思った。でも次の言葉で「え?と思った。

・クラブを握る手を緩めない。

 クラブは最初から最後までしっかり握ったまま振り切る

(もしかして…)

そう、その言葉に思い当たったのだ。私はクラブを振り上げて、一度一呼吸とまでは行かないが少しためて打つのだ。その時に、腕に力が入らないように一回力を抜くようにしている。これが正しいかどうかは分からない、ただ、そうした時の方がコントロールを保てて、飛距離も伸びる。だからずっとそうしていた。私は自分が打つときの様子を思い返す。最近はセカンドショットのミスが多すぎて、セカンドショットでは増々注意して力を抜くようにしていた、その時、握る手の力も抜いていたのではないか――そんな気がしてくる。

 その動画の中で力を抜く事と、グリップを握る手を緩める事は全然、違います。グリップを握る手を緩めるとクラブのフェースの向きも安定しなくてコントロールも悪くなり、飛距離も出なくなります。

 という事だった、気になった私は翌日早速打ちっぱなしへ。スプーンを手にすると、意識してグリップをしっかり握る。腕に物凄く力が入っている気はするがそのまま振りぬいた。

続きはこちら

第24話 初心者と一緒に…

そうしてゴルフ歴四年目になった私、しかしまだ百は切れず未だ百十をウロウロ。。今のベストは百八、弘美さんが言っていた煩悩だ(笑)。

 先日、これまた練習場で知り合った、二十四歳(私より一歳下)の男性と成り行きでラウンドに出る事になった。一緒に行ったのは弘美さんと私とその男性、桑原智之さんの三人。実はこの桑原さん。ゴルフを始めたばかりで、まだラウンドに行った事がないという人。

 会社の人間が結構、やっているが今まであまり興味がなかったそうなのだ。でもみんなが楽しそうにゴルフ談義をしているのを何度も横目で見て少しやってみようかなと思ったらしい。今はまだ会社の人間に内緒でしているそうで、この練習場も会社から遠いから選んだという事らしい。

 見てるとドライバーは結構飛んでいる。やっぱり男の人は良く飛ぶな~と思った。でもなんだかいつ見てもドライバーしか振ってないように思う。他のはクラブは練習しないのですか?と聞いたら、だって、他のクラブは全然飛ばないから面白くないし、と言われた。(ハハ……)

 で、偶々、また一緒になった時に、コーヒー、ご馳走するから休憩しようと言われたので一緒に喫茶ルームへ。

「ところで島村さんはゴルフ歴、どれくらいなの?」

「私、今年で四年目になりました」

「へ~じゃ、スコアは?八十くらい?」

「は?」

どうやったら、その数字が出てくるんだと思った。

「八十なんかで回れるはずないじゃないですか!そんなのメチャメチャ上手い人のスコアです!」

「そうなの?でも何か、数あるじゃん。1ホール四打とか三打とか」

「ああ、パーの数ですか?」

「そうそう、そのパーってやつ。十八ホール回って七十二とか、それが平均値なんだよね?」

「はあ?」

それは誰に教わった定義なのだ?と思わずにはいられない。

「それは各ホールの規定値であって、平均値の事じゃありません」

「ふーん、じゃ、島村さんの一番良いスコアって、幾つなの?」

「私は、百八ですけど…」

「あー、まだそんなもんなんだ!」

そう言った桑原さんの顔は明らかに見下しているように見えた。

(カッキーン)

というナイスショットの音が、ではなく何かがぶち当たる音が私の頭の中で聞こえた。自分でも上手いとは思っていない、確かに中々上達しないという事は分かってる、でも始めたばかりのお前に言われたくはない、という思いが走る。

続きはこちら

第25話 百の壁

そしてゴルフを始めて五年が過ぎた。しかし未だに百切出来ていない私。百の壁は厚い、という事を痛感している。 でも(知らんがな、そんな事)を呟く事はかなり減った。

 前回行った時は、ちょっと期待した場面があった。前半ハーフ五十三で回り、後半ハーフ八ホール目までの成績が快調に進み四十二、最後のホールはショートホール。もしパーで上がれれば九十八。なんて頭の中で計算していた。だが何と一打目で、目の前の池にボールが吸い込まれて行き、いきなり三打目になった。でも距離は百ydほど、一オンしてパター一打で済ませればまだ可能性がある。なんて思ったのがいけなかったのだろう、グリーン手前のバンカーの壁に球は激突。

(あ~ぁ……)

この九十度くらいあるんじゃないの?と思うような壁を叩く事二打、三打目でようやく上に上がったがバンカーの淵にギリギリ引っ掛かってるような場所。まともに立つ事も出来ない、勢いで打ったら、グリーンを超えて行った。何とか一パットで入ったものの八オンとなった。結局ショートホールで九打も叩くという有様。なので後半スコア五十一になり、結局百四。

 こんな風に、もしかして?と思うシーンは何度かあったが、ベスト百三止まり。あとちょっと、というところでどうしても百切れないでいるのだ。弘美さんや、留美さんはもう何度も百を切っている、というか弘美さんは今、九十台半ばをウロウロしていて、九十に辿り着かないとこぼしている。留美さんは九十代前半をキープ。こちらも九十切れないとぼやいている。

 みんな一気に上達とはいかないのだ。それでも私は取り敢えず二ケタ台になりたい。毎回必ずそうなれるわけでもないと思うが、兎に角百切したい!という思いがい日に日に強くなる。

 サイトには百を切るには?とか百を切るためみたいなタイトルのサイトが山程ある。でもそれを見ても簡単には百切り出来ない。それでもついつい見てしまう、そして納得したり、しなかったりだ。

 でもゴルフを始めたばかりの時は、百切出来るかどうか、なんて悩む日なんて来るのだろうかと思っていたくらいだから、かなりの進歩だとも言える。こんなに続けるなんて正直意外だ。それなのに最近は練習場に行く事がめっきり減った。上手い人ほど練習熱心というのはどうやら本当のようだ。中本さんなんて、週三回くらい行ってると言っていた。あんなに上手いのに、と思ってしまう。

続きはこちら

 

\ この記事の感想を教えてください /